第23話 教会
あの後私達は、雫達がいるという村のはずれにある教会に来ていた。
教会にはヴォルスから逃げのびた村の人が十数人いた。
村の人達は私の胸の宝玉を見るなり一斉に拝んできて、少し面食らった。
そうして今私は、レミと一緒に村の人達にお茶を配っている。
その近くで、雫と雪奈が忙しそうに村の人の手当てをしていた。
光樹、焔、ライは教会のみはらし台で見張りをしている。(うるさいから外に出されたというのもある)
「いててて! もう少し優しくしてくれよぉ。」
「してるわよ。はい、終わり。」
そう言って、雪奈は腕を怪我している村の人の腕を叩く。
「いって! 」
「雪奈、次はこっちを診てくれ。」
「分かったわ。」
そう言いながら、雪奈は雫が呼んだ方へ移動する。
「お茶どうぞ。」
「ああ、ありがとう。」
「おーい、こっちにもくれー。」
『結希、あっちも! (ワン! )』
お茶ののったおぼんを持つ私の隣で、レミがそう言う。
「うん。…はーい、いま行きまーす! 」
……静かだなぁ…。
雪奈が教会のまわりに結界を張ったから、この中は安全だって聞いたけど、それでも結界に攻撃してきたヴォルスの衝撃が中に伝わって、音をたてて教会は崩れそうなくらい揺れていた。
なのにさっきから、全然揺れてないし、静かだ。
…結界をやぶることを諦めたのかな。
そんなことを考えながら、私が村の人にお茶を配っていると。
「なんだよそれ! 」
村長さんと話していたらしいリク君が大声でいきなりそう言ったので、皆会話を中断して視線をリク君に集める。
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『━! こ、これ! 』
リク君を見つけた路地を出てすぐの所にある血溜まりの中に落ちていた服を手に取り、リク君は青ざめる。
『この服…リク君のなの? 』
『━ちゃんの…。』
『えっ? 』
『これ…兄ちゃんの服だ。』
二度目ははっきりと言葉が聞こえたけど、その声には絶望が混じっている。
『服だけでよく分かるわね。』
『そ、そうだよ、もしかしたら似ている服ってだけかもしれないじゃないか。』
リク君を励まそうとする二人の言葉に、リク君は首を強く横に振って否定する。
『…これも、兄ちゃんのだから。』
そう言ってリク君は、手に血がつくのも構わずに血溜まりの中のナイフを拾いあげたのだった。
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あれから教会に来るまで、リク君は一言も話さなかった。
だから、なんで藁に埋もれていたのかとか、他に家族はいるのかとか全然聞けてない。
「これ! リク! 」
…バンッ!
そう言う村長さんの制止も聞かずに皆の注目を集めながら、リク君は教会の外へ出て行ってしまった。
「リク君…。」
少し経って、皆は中断していた会話を再開する。
「レミ、これ光樹達に持ってっておいて。私、リク君見てくる。」
そう言って、私は持っていたおぼんからお茶を1つ取り、そのおぼんをレミの近くに置くと、リク君の後を追った。
『えっ!? ちょ、ちょっと結希!? (ワン!? )』
リク君の後を追って教会の外に出ると、白い壁の前で体育座りしているリク君を見つけた。
これが雪奈の言っていた、教会を覆う結界らしい。
上を見上げると、ドーム状になっている。
「…リク君。」
一見、雪のように見える白い壁に触って、思ったより硬いと思いながら、私はリク君にそう話しかける。
「…何だよ。」
リク君は膝に顔をうずめたまま、そう返す。
「えっと…お茶、飲む? 」
そう言う私の言葉に、リク君は顔を少しあげて私を見る。
「…なんだ、あんたか。」
そう言ってリク君は、また膝に顔をうずめる。
「あんたって…村長さんに何か言われたの? 」
そう言いながら、私はリク君の隣に座る。
「…別に。」
「でもリク君、さっき凄く怒ってたよね? 」
「…みんなが意気地無しだから。」
「えっ? 」
「あいつらと戦わないって。」
…あいつらって、ヴォルスのことかな。
「それは…。」
「姉ちゃん、アルコイリーズなんだろ? 」
「えっ? あ…うん。」
そういえば、旭が女王直属部隊にはもう1つの呼び名があると言っていたのを思い出す。
それが、アルコイリーズだった。
「じゃあ…どうして…ひぐっ…。」
「り、リク君? 」
恐らく泣いているであろうリク君に、私がそう話しかけると。
「どうして俺だけ助けたんだよ! 」
涙で濡れたままの顔をあげながら私の方を向き、リク君はそう叫ぶ。
「父ちゃんも母ちゃんも兄ちゃんも! みんなあいつらに殺された! 」
さらに立ち上がって、リク君は私を見ながら叫ぶ。
「俺だけ…ひぐっ…俺だけ助けてもらったって…。」
「リク君…。」
また俯いてしまったリク君に、私はそれ以上のかける言葉が見つからない。
「…だから、俺があいつらを殺してやるんだ。」
「そ、それは駄目だよ。」
「なんでだよ! 姉ちゃんもみんなと同じであいつらが怖いのかよ! 」
勢いよく顔をあげて、私を見ながらそう叫ぶリク君。
「そうじゃなくて…あいつらのことは、光樹達に任せておいた方がいいと思うよ。」
「……。」
私の言葉に、リク君は納得いかないような顔をして黙りこむ。
「わ、私も頑張るから! 」
私がそう言って、立ち上がったその時。
ドーン!
さっきまでおさまっていた攻撃の音が、再び鳴る。
ピシッ。
しかも、私達のすぐ横にある結界にひびが入りはじめた。
ピシッ…ピシピシッ。
「リク君! 教会の中に━。」
ドーン!
そう言う私の言葉を遮って、結界の一部が壊れた。
壊れたのは、私達のすぐ横の結界。
パラパラパラ……じゃりっ。
壊れた結界の外から、立ちこめる煙とともに入って来たのは。
「ありがとうございます、タツキ様! これで中を探せます! 」
「お礼はいいので、さっさと姫様を探しにいってください。」
「は、はい! 」
煙がはれると、そんな会話をしていた2人の姿が現れる。
「おや? 」
「お? 」
壊れた結界の外から入ってきたのは、あのタツキという男の人と一体のヴォルスだった。
パシュッ。
私は恐怖で全身の血の気が引いたけど、取り合えず服を戦闘服に変える。
「これはこれは…探しにいく手間がはぶけましたね。」
「リク君! 逃げ━。」
ドスッ。
驚きのあまり動けないでいるリク君の方を振り向きながらそう言うと同時に、私の首に鈍い衝撃がはしる。
「姉ちゃん! 」
薄れていく意識の中で、そう叫ぶリク君の姿が見えた。
[つづく]
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