第20話 言い争い



ドーン!



「遅い! 何やってたの! 」


私達がゲートをぬけた先にいたのは、苛立っている様子の雪奈。


「ごめん、私が━。」


「ごめんごめん。ちょっと忘れ物しちゃってさ。」


私の言葉を遮り、苦笑しながら光樹はそう言う。


そんな光樹を見て、雪奈がさらに表情をけわしくしながら口を開きかけると。


『あれ? 雫達は? (ワン? )』


レミが雪奈に向かってそう言い、雪奈は開きかけていた口を閉じて私を見る。


「結希、レミは何て? 」


「…ああ、雫達はどこ? って言ってる。」



…そうだった、通訳忘れてた。



「雫達なら、先に村をまわってるわ。」


『じゃあ、私達もそろそろ行こうよ。(ワン。)』


レミは私の腕から飛び降りながらそう言う。


「じゃあ、私達もそろそろ行こうよ、だって。」


「だね。雫達とは別行動ってことでいいんでしょ? 」


「今から雫達に追いつけるわけないでしょ。」


そんなことを言いながら、私達は歩き出したのだった。





ーーーーーーーーーーーー






バチバチバチッ!



「ぐあぁぁぁぁ! 」


「ったく、きりがねぇ! 」


俺がヴォルスを倒した後ろで剣を振り回している焔は、そんなことを叫ぶ。


「ああ! もう面倒臭ぇ! 」

そう言って、焔は剣に力を込めはじめる。



…まずい。



「…待て、え━。」




ドカッ。



「がっ! 」


俺の静止の言葉を遮って、雫が焔を背後から蹴った。


そのことにより、焔は前のめりに倒れる。


「お前のその行為が、ヴォルスを引きつけていると何回言ったら分・か・る・ん・だ! 」



…本当に、これじゃあ村人の救出も出来ない。



「いてて…。でも、倒してるんだから別にいいだろ! 」


焔は後頭部をさすって起き上がりながらそう言う。


「よそ見してると危ないぜぇー! 」



ドスッ、バチバチッ!



そう言って左方向からやって来たヴォルスの胸に俺は手刀を突き刺し、電流を流す。


「村人を避難させてからと言っているだろう! 」



…取りあえず、その話は後にしてこれを倒した方がいいんじゃないか。



そう思う俺と叫び合っている雫達の周りにいるのは、ヴォルス5体。


それを俺は言い争っている2人に代わって、電撃を混ぜた体術で倒していく。


「でもまず、こいつら倒さねぇといけねぇだろ!? 」



バチバチバチッ!



「ぐあぁぁ! 」


「くそっ、ばらばらじゃダメだ! おい! 」


「おう! 」


そんなことを言いながら、2体のヴォルスが俺に向かってくる。


「だから、倒す時にその派手な攻撃をするのを止めろと言っているんだ! 」



ドカッ、ドスッ。


バチバチバチバチッ!



「ぐ…あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛! 」


「ぐはっ…あ゛ぁ゛ぁ゛! 」



…あと2体。



その内1体がすでに俺に向かってきていた。


「お前らに用はねぇんだよ! 姫様はどこだ! 」



……姫様?



「いいじゃねぇか! まとめて何体も倒せんだから! 」


「だから! そのせいで他の所にいたヴォルスがここに集まっていると、何回言ったら分かるんだ! 」



…今日、この会話を聞くのは何回目だろうか。



そんなことを思いながら、俺は向かってきたヴォルスを倒す。




ドスッ、バチバチッ!



「ぐあぁぁぁ! 」



……あと1体…。



そう思いながら、俺が雫達の方を振り返ると。


「来たらまた倒せばいいだろ! 」


「少しは体力を温存しろと言っているんだ! 」


そう話す2人の数メートル横に、ヴォルスはいた。


2人は言い争うのに夢中で気づいていない。


「姫様はどこなんだよ! 」


そう言いながら、ヴォルスは2人に向かっていく。


2人もようやくヴォルスに気づいたみたいだが、少し遅い。



バチバチバチッ!



俺は2人の間に立って、ヴォルスが2人にたどり着く少し手前でヴォルスの頭をつかみ、電流を流した。


「ぐあぁぁぁぁ! 」



…ドサッ。



「…終わった。」


俺はヴォルスを離しながらそう言う。


「あ…す、すまない、ライ。」


「ほーら、雫が説教ばかりしてるから…。」


「お前が私の言っていることを1度で分かればいい話だろう! 」


2人はそう言って、また言い争いを始めてしまった。



……はぁ。



「…俺、先行ってるから。」


言い争う2人に俺はそう言うが、2人は俺の言葉に気づく様子はない。



…まぁ、その内気づくだろ。



そう思いながら、俺は2人をおいて歩き出した。



[つづく]

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