第15話 歓迎


…綺麗。


そう思う私の目線の先にあるのは、色とりどりのペンダントや指輪などのアクセサリー。


特に私の目を引いていたのは、金色の熊の顔のペンダント。


目は赤い宝石で出来ている。


「結希さん! 」


そう声がする方を向くと、光樹さんがこちらへ駆けてきていた。


…あ。


「突然居なくなったから、びっくりしたじゃないか! 」


「ご、ごめんなさい…。」


…そうだった。


アクセサリーを見ることに夢中で、すっかり忘れてた。


「何か気になるものでもあったの? 」


「この熊のペンダント、可愛いなって思って。」


そう言って、私は熊のペンダントを指す。


「これ? 」


そう言いながら、光樹さんはペンダントを手に取る。



…パカッ。



そんな音を立てて、ペンダントが開いた。


「えっ? 」


「光樹さん、これって―。」


「だ、大丈夫! 壊れてないよ! …多分。」


「……。」



……いや、だから…。



「兄ちゃん達、そのロケットが気に入ったのかい? 」


そう私達に話しかけてきたのは、店の奥から出てきた体格のいいおじさん。


…なんだか、『アリババと40人の盗賊』とかに出てきそう。


「ロケット? あ……うん、買うよ。」


やっと、自分がペンダントを壊したのではないことに気づいた光樹さんが、そう言う。


…ん?


「買うんですか? 」


「うん。だって結希さん、これ気に入ったんでしょ? 」


「い、いや、確かにそうですけど…。」


…こんな高そうな物、買ってもらっていいのだろうか。


それも、まだ出会って間もない人に。


「高そうですし、いいです。」


「大丈夫。それに、僕からのプレゼントってことにしとけばいいと思うよ。」


…何のプレゼントなのだろうか。


「それよりこっちの方が、兄ちゃん達にはいいんじゃないかい? 」


そう言いながらおじさんが私達に差し出したのは、ピンクの宝石がびっしりとついた、ハート型のペンダント。


「これもロケットになってるし、ラブラブな兄ちゃん達にはぴったりだと思うよ? 」


「…ど、どうする? 結希さん? 」


急に私から顔をそらし、そう言う光樹さん。


その顔は少し赤い。



…いや、多分私も赤い。


自分の顔が火照っているのを感じる。



…多分、私達は今、おじさんにカップルだと思われている。


まぁ、あのペンダントは趣味じゃないし…。



「い、いらないです。」


「そっか、じゃ、じゃあこれで。」


そう言って、光樹さんは熊のペンダントをおじさんに差し出した。


「そうかい? …はいよ。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


―バチバチッ。



あの後私は、光樹さんに連れられてみんなの仕事場だという所へ行った。


そして、そこにあったあの虹色の壁(ゲートらしい)を通って、光樹さん達の家に戻ってきた。


「ありがとうございます。助けてもらった上にペンダントまで買ってもらって。」


私は光樹さんと廊下を歩きながら、そう言う。


「だから、そんなに気にしないでよ。…それに。」


リビングのドアの前まで来ると光樹さんは立ち止まり、言葉を切る。


「ずっと思ってたけど、なんで敬語なの? 」


「え…いや、だって…光樹さんは、私より年上みたいですし…。」


…年上に敬語を使うのは当たり前じゃないだろうか。


「…なんか、すごく距離を感じるし、もしできるなら…その…普通に話して欲しい。」


光樹さんは少し申し訳なさそうに、そう言う。


…私はもしかしたら、光樹さんに物凄く気を遣わせていたのかもしれない。


「分かりま…分かった。」


「うん。みんなもその方が喜ぶと思う。」


そう言って、光樹さんは私に微笑む。


「それじゃあ結希さん、このドア開けてみて。」


「えっ? 」



…何で?



てか、私に敬語をやめろと言ったのに、光樹さんは私を さん づけで呼ぶのか。


そう思いながら、私はドアノブに手をかける。


「あの。」


「何? 」


「光樹さんも私のこと、 結希さん って呼ぶのやめてください。」


「…分かった。じゃあ、僕のことは 光樹 だね。」


「は…うん。」


…あれ? はい って敬語?


そんなことを思いながら、私はドアを開けた。




パン!パパン!



次の瞬間、私に向けてクラッカーが放たれる。


「「「おかえり! 」」」


「へっ? た、ただいま…。」


…何でみんなでお出迎え?


そう思っている私の方に、雫さんが歩いてきた。


「ほら、そんな所に突っ立ってないで早く座れ。お前が主役なんだから。」


そう言って雫さんは私の手を引っ張り、ソファへと座らせる。


「…主役はこれをかぶるんだ。」


「へっ? 」


そう言いながら、私は後ろを振り返る。


「…動くな。」


「あっ、はい。」


表に向き直った私に、ライさんは王冠をかぶせた。



「オレ、結希ちゃんの隣がいいー! 」


「あ!俺も! 」


星太さんと焔さんは2人並んで手を挙げ、そう言う。


「あなた達と一緒に座ったら、結希さんが疲れてしまうわ。」


「そうよ、あんたらはあっち。」


「「えー。」」


ソフィアさんには笑顔で、雪奈さんには厳しめに制止された2人は、渋々引き下がった。



…というか。


「あの、これは一体…。」


「ん? ああ、これはお前の歓迎会だ。」


「えっ? 」


「そうそう、ごちそういーっぱいあるよっ♪ 」


そう言うモカさんは、両手に持つお皿に沢山の料理をのせている。


……歓迎会…そうだったんだ…。




「あ、ありがとうございます。」


「そんなにかしこまるな。私達、もう仲間なんだから。」


私に笑いかけながらそう言う理那さんの後ろから、旭さんが現れる。


「そうそう。」


「旭!? お前、来てたのか! 」


「そりゃあ、結希の歓迎会なんだし。」


「いやいや、ぼっちでメシ食うのが嫌だっただけだろ? 」


「なっ! 」


「ああ、納得。」


そう言って、光樹さんは苦笑した。



…ドスッ。



「結希ちゃんの隣には、俺が座るよ。」


そう言いながら、咲夜さんは私の隣に座る。


…が。


「いたたた! 」


「…あなたはこっち。」


そう言う睦月さんに耳を引っ張られ、咲夜さんは別の場所へ連れていかれた。



ギャーギャー。



『全く、みんな結希が主役なのに騒ぎすぎだよ。』


いつの間にか私の隣に座っていたレミがそう言う。


…確かに、レミの言っている通り、みんなは騒いでいる。


星太さんと焔さんなんか、変な踊りまで始めた。


……でも。



「ふふっ、でも賑やかで、こういうのもいいと思う。」


みんなを見て笑いながら、私はそう言ったのだった。



[つづく]

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