第14話 執事服の男


「―し。」


体を揺すられる感覚と共に、誰かの声が聞こえる。


「もしもし。」


「んん…。」


さっきより声がはっきり聞こえ、私はゆっくりと目を開ける。


「こんな所で寝ていては、風邪をひきますよ。」


そう、私に話かけるのは、暗めの茶髪をオールバックにし、眼鏡をかけ、執事服を着た男。


「へっ? …は、はい! 」


自分がベンチで寝てしまっていたということに、ようやく気がついた私は、そんなことを言いながら飛び起きる。


あたりはすっかり夜になってしまっていた。


私達以外に、人は見当たらない。


「あ、ありがとうございます…。」


「いえ。お1人ですか? 」


男は、優しそうに微笑みながらそう言う。


「ええ。まあ…。」


「夜の女性の1人歩きは危険です。よろしければ、ご自宅までお送りします。」


「あ…いや、その…。」


そのご自宅が分からない、なんて言えない。


「遠慮なさらずに、さあ。」


そう言って、男は私の手をとり、引っ張る。


「行きましょう、姫様。」


「へっ? 」


…姫様?



ズダダダダッ!



その時突然、男に向けて攻撃が放たれる。


男はそれを避ける為に、私の手を離し、後ろへ飛んだ。


「結希さん! 」


名前を呼ばれた方向を見ると、光樹さんがこちらへ走ってきていた。


「大丈夫!? けがしてない!? 」


私の肩を強くつかみながら、光樹さんはそう言う。


「は、はい…。」


そんな光樹さんに少し面食らいながら、私はそう答える。


「よかった…。あ! ごめん! 」


そう言って、光樹さんは私の肩をつかんでいた手を離す。




「おやおや、誰かと思えば、光樹さんではないですか。」


「…お久しぶりです、タツキさん。」


そう言い合う2人は知り合いみたいだけど、光樹さんは何故か、男を睨んでいる。


「そんな怖い顔をしないでください。今日はただ、新しい姫様にご挨拶しようと思っただけですよ。」


「いいや。」


そう言うと同時に、光樹さんは剣をぬく。


髪がエメラルド色に光っているので、多分力を使っているのだと思う。


「みんな、貴方を探してます。一緒に来てもらいましょう。」


「それはできないご相談ですね。」


そう言った男は突然、私達の前から消える。


「なっ…!? 」


次の瞬間、光樹さんの後ろにいる私のすぐ横に、男は現れた。


「後日、改めてお迎えにあがりますね。」



ビュッ!



「おっと。」


男に気づいた光樹さんが剣を横に振るが、男はそれを軽く後ろへ飛んでかわす。


「光樹さん、くれぐれもお気をつけ下さい。と、皆さんにお伝え下さい。……では。」


「待て! 」



ビュオォォォ!



光樹さんは男を引き止めようとしたが、強い風と共に男はまた消えてしまった。


……何だったんだろう、あの人。


私がそんなことを思っていると。



ヴン…。



光樹さんが、腰のポシェットからスマホ…じゃなくて、シープを取り出して誰かに連絡をし出す。


「……あ、雫? 結希さん、見つかった。…うん。」


…どうやら、雫さんに連絡をとってるみたいだ。


「…え!? う、うん…分かった…。」


そう言うと、光樹さんは通話を終了し、腰のポシェットにシープをしまった。


「あ…えっと…取り合えずこれ、旭から。」


私にシープらしき物を差し出しながら、光樹さんはそう言う。


「…私にですか? 」


「うん。」


そう言われ、私はシープを受け取り、操作してみる。


「これって、シープってやつですか? 」


「え!? 知ってるの!? 」


「さっき、見本を見ました。」


「ああ、なるほど。」

…操作方法は大体スマホと同じみたいだ。


「分からないことがあったら聞いてね。」


「はい。」


「取り合えず、行こうか。」


そう言われた私は、シープをポケットにしまい、光樹さんと一緒に歩きだした。

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…タツキさん、一体何をするつもりなんだろうか。


大体、どうして結希さんを狙うんだ?


女王様を狙うなら分かるんだけど…。


僕はそんなことを考えながら、結希さんと町を歩いていた。


「…ありがとうございます。なんかいろいろと。」


「そんな! 気にしないで! 」


そんなことを話しながら、僕達は家に向かっている。


……………………物凄く遠回りしながら。



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『…あ、雫? 結希さん、見つかった。』


《本当か!? 》


『うん。』


《よかった…。あ、光樹、悪いんだが家に帰ってくるのはもう少し後にしてくれ。…物凄く遠回りするとかして。》


そう話す雫の後ろで、 ガシャーン! とか、星太の 『ああー! 』 とか、雪奈の 『それはそこじゃない! 』 とか、色々聞こえてくる。


『え!? う、うん…。』


《すまないな、まだ準備が終わらなくてだな…。》


『分かった…。』



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…あの様子だと、遠回りだけではダメだろうか。


「結希さ―。」


そう言いながら結希さんの方を向くと、そこに結希さんの姿はなかった。



[つづく]

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