第12話 不思議な街


「ここが結希の部屋だ。隣の部屋には私がいるから、何かあったら言ってくれ。」


「はい。」



旭さんから説明をうけた後、雫さんは私の部屋を教えてくれた。



「他の所も案内したいんだが、私は今日は見廻りがあってできない。他の奴に頼んでくれ。」


「分かりました。」


「じゃあ、また夕食で。」


「はい、ありがとうございます。」



…バタン。



そう、私は雫さんにお礼を言った後、部屋のドアを閉めた。


部屋の中には、ベット、タンス、全身鏡など、生活に必要な雑貨が置かれていた。


部屋に窓はない。


…そういえば、さっきいた部屋にも、レミと会った部屋にも窓はなかった。


もしかして、この家には窓がないのかな。





……暇だし、他の所も見に行こう。


そう思った私は、廊下へでた。



バタン。



廊下には、誰もいない。


…みんな、忙しいのかな。


自分で見てまわるか。


私はそう考え、廊下を歩き出した。





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……みんな、本当にどこ行ったの?


1人くらい会うと思ったんだけど…。


行く先にあるのは、空室ばかり。


しかも、めちゃくちゃに歩いたせいで、自分の部屋への戻り方が分からなくなった。


この家、結構広い。


「どうしよう…。」


そんなことを呟きながら、廊下を歩いていると。



ポゥ…。



前方で、何かが光った。


「何だろう? 」


私は、少し歩みを速めて光の方へ行く。


……そこにあったのは…虹色に光っている壁。


光はそんなに強くない。


「何…これ…。」


ここは廊下のつきあたり。


この光る壁以外、目立つ物は見当たらない。


…この壁は、なんの為にあるのだろう。


そんなことを考えながら、私は壁に手を伸ばす。


……そして、壁に触れた瞬間。



バチバチッ。



「えっ!? 」


電撃のような光を放ちながら、壁は私の体を吸い込んでいく。


「ちょ、ちょっと待って! 」


そう言いながら、私は必死に、体を壁から出そうとする。


…だが、そんな必死の抵抗もむなしく、私は壁に吸い込まれてしまった。


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「でも本当に、なんで見つからないんだろうな。隼斗。」


「そうだね。」


…結希が第3世界からやって来たのにも驚いたけど、パートナーだって分かった時はもっと驚いた。


そしてヴォルス。


あいつらが復活したなら、隼斗もいないと困るんだが…。



ブゥン。



「すまん、旭! もうゲート閉じても大丈夫だ。」


見廻りの為に外に出ている雫が、通信モニターに映る。


「ああ、了解。気をつけてね。」


「報告遅れてすまない。すっかり忘れていた。…それから、そこに光樹はいるか? 」


「いるよ。何? 」


「結希をしっかり案内してやれよ。」


「そうだ! その為に見廻り免除してやったんだからな! 」


焔が雫を押して、無理矢理通信モニターに映る。


「分かってるって。ありがとう。」


「焔、ちょっと黙ってろ。」


雫が、そう言いながら焔を押し返す。


「取り合えず、頼んだぞ。」


「ワン! 」



ブゥン。



レミの鳴き声を最後に、通信は途絶えた。


「じゃあ僕、結希さんの所に行ってくる。」


そう言って、光樹は出口へ歩き出す。


「うん。…あ、ちょっと待って。」


「何? 」


俺に呼び止められた光樹は、出口付近で立ち止まる。


「これ、結希に渡して。」


俺は光樹の所まで歩いていき、物を手渡す。


…投げてもよかったんだけど、多分光樹は落とすからな。


「え!? シープ!? 結希さん、使い方分かるの? 」


「分からないと思うけど、いじってればそのうち分かると思うし、どうしても分からなかったら、俺の所に来てって言っといて。」


「分かった。じゃあ、行ってくる。」


そう言って、光樹は部屋を出ていった。


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「へっ? 」


コツッ、…ドシャアア。


「ぶべしっ! 」


…どうやら、壁をすり抜けた向こう側についたらしい。


「…いたたた…何でこんな所に石があるのよ。」


私は、体を起こしながら落ちている小石に文句を言う。


「…てか、ここ…どこ? 」


そう言いながら私は、周りを見回してみる。


河原かと思ったけど、違った。


目の前にあるのは湖。


2mくらいの坂の上に道があった。


取り合えず、私はその道まで行ってみた。


「はあ…はあ…。」


道に立つと、正面に時代劇でよく見るような町が見えた。


……行ってみたいけど…この格好じゃ目立つよね…。


私の今の格好は、Tシャツに短パン。


あそこがどんな所かは知らないが、私が想像しているような所なら、きっと殺される。


私がそんなことを考えていたその時。


「…え? 」


よくよく町の人達を見てみると、着物を着ている人、ドレスを着ている人、私のような服を着ている人…。


みんな、いろんな服を着ていた。


「ど、どういうこと!? 」


訳が分からない。


…でも、これなら私も目立たないで歩ける。


そう思いながら、私は歩き出したのだった。


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…大変だ。


どうしよう、どこにもいない。


ピッ、プルルル…。


僕はすぐに、旭に連絡をとる。


プルルル…ッ。


『はい旭。』


光)「旭! 大変だ! 結希さんがいない! 」


『……。』


「自分の部屋にも、他の部屋にもいないんだ! 」


『…分かったから落ち着け。あと、叫ぶな。』


「わ、分かった…。でも、どうすればいい? 」




『本当にいないのか?』


「うん。」


『ちょっと待って、今発信器の場所、検索するから。』


「うん。」


『……あれっ? 』


「何、どうしたの? 」


『結希の反応、外にあるよ。』


「ええっ!? 」


『今、町の中を移動してる。』


「なんで外に…。」


『取り合えず、結希の現在位置が知れるやつ、光樹のシープに送っとくから、それで結希を探して。』


「分かった! 」



…バチバチッ。



そう言って、僕は通信を切り、ゲートをくぐったのだった。



[つづく]

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