第10話 帰れない
私の発言に静まりかえる部屋。
「あー、それなんだけど…。」
旭さんが沈黙をやぶって話しだす。
「さっきも説明したように、君の世界は資料しかなくて…つまり、誰もアクセスしたことがなくて…その…帰るのは…難しいんだ…。」
「え…。」
「帰る方法が無い訳じゃない。
ただ、アクセス方法が特殊で、第3世界にアクセスするには、
『第3世界の人間と、光の適合者が必要』
って書いてあって…その適合者は今、行方不明なんだ。」
「うそ…。じゃあ私、帰れないの? 」
敬語を使うのも忘れ、私は聞く。
「…ごめん。」
旭さんを含め、みんなが気まずそうな顔をする。
「でも、帰ってもらっても困るんだ。」
そう言って旭さんは、私に青色の細い腕輪を渡す。
なにやら、小さな画面のようなものがついている。
「それを、画面の方を上にして、腕につけて。」
旭さんにそう言われ、私は腕輪を腕につける。
「そうしたら、画面が宝玉にかかるように、右下からアーチを描いてみて。」
私は言われたとおりに腕を動かしてみる。
パシュンッ!
アーチを描き終わった瞬間、私の体を光が包み、一瞬にして、私の服が変わる。
「え…。」
「何これ!? どういうこと!? 旭!? 」
私より、隣にいる光樹さんの反応の方が大きい。
少し短い青いスカートに、白いワイシャツ。
胸と腰の後ろには大きな青いリボン。
指の部分が鉄で出来ている青い手袋に、膝下くらいまである、あみあげの青いブーツ。
頭には、長いリボンのついた青いベレー帽。
「…プ◯キュアかよ。」
「えっ? 」
思わず心の声が出てしまった私を、光樹さんが見る。
「なんでもないです。」
…この格好は少し恥ずかしい。
というか、なぜ、こんな格好にさせられたのか。
「なかなか似合ってるじゃないか。結希には、これを着て一緒に戦ってもらう。」
「はい? 」
戦うって、もしかしてあの化け物となのか。
「え! 結希さんを戦争に参加させるの!? 」
「無茶だ! 結希には戦闘の経験がない! 」
旭さんをのぞく、全員が驚く。
「その服は見た目より丈夫に作ってあるから大丈夫。
手袋と靴は、普通の100倍くらいの力が出るように作ってあるから、訓練して、使いこなせるようになれば大丈夫だと思うよ。」
「え! 100倍!? すごっ! 」
「でも、この子は自分の世界に帰らなきゃいけないのに、そんな危険なこと…。」
「うん。でも、『ヴォルス』が復活した今、結希にも戦ってもらわないといけないんだ。」
「すみません、その話しにはいる前に、元の格好に戻してください。」
なんか、恥ずかしい上に少し疲れてきた。
「ああ、腕輪の画面をタッチすると元に戻るよ。」
パシュンッ!
旭さんに言われたとおりにすると、私の体を再び光が包み、一瞬にして私の服が元に戻った。
「旭、まさか僕が戦ったあれが、ヴォルスだったのか? 」
「うん。その可能性は高いと思う。」
「でもあいつ、4年前に戦ったあいつらとは全然違ったぞ!? 」
「そうだ。4年前に戦ったあいつらは、空を飛んだりしなかったし、言葉も話さなかった。」
「でも今は、ヴォルスが復活したと考えるのが妥当だと思う。」
そう言う旭さんの言葉に、みんなは深刻な顔をして黙りこんでしまう。
「あ、あの…。ヴォルスって何ですか? 」
さっきから私は、全く話しについていけてない。
「ああ、そうか、結希に説明していなかった。」
そう言って旭さんは、再びキーボードをいじり始める。
『ヴォルスのことは、この国の歴史と関係があるんだ。(ワン! )』
レミは私にそう言う。
「歴史? 」
「そう、結希にはこの国の歴史を知って…って、何で分かったの!? 」
旭さんは私の方を振り返り、驚いた顔でそう言う。
みんなも同じ顔で私を見ている。
「え…いや…その、レミがそう言っていたので…。」
私がそう言うと、今度はレミにみんなの視線が集まる。
『うん。言ったよ。(ワン! )』
『い、今は何て言ってる!? 』
「え、えーっと…、言ったよ。って言ってます。」
「これってもしかして…。」
「驚いたな。ここまで女王様と一緒の力を持っているなんて。」
『取り合えず、結希に歴史を話そうよ。(ワン! )』
レミがそう言うと、通訳しろと言わんばかりに、みんなは私を見る。
「えーっと…、私に歴史を話そうよって言ってます。」
「…確かにそうね。」
「ああ。…ヴォルスとこの国の歴史は、6年前から始まったんだ。」
そう言って、旭さんは語りだした。
[つづく]
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