第6話 逃亡者

「レミ! 俺、ちょっとここにいるから、吠えるなよ! 」


ドアを閉めながら、部屋に入ってきた男の人は話す。


『まーた、雪菜せつなから逃げてきたの? えん? (クゥーン。←焔にはこう聞こえる)』

呆れたようにレミは話す。


「しぃー! 」


ドアに耳をあてながら、レミに向かってその男の人は注意する。


かなり短い黒髪で、腰にはさっきの人より2まわりくらい大きい剣を帯びていた。


「ん? ああ! 起きたのか! 痛いとことかねぇか? 」


レミに吠えるなと言ったくせに、笑顔で大きいこえで話すその人は、ドアを離れて、こっちに歩いてきた。


私はレミを抱き上げ、少し後ろにさがる。


剣を持っている人なんて、危険に違いない。


『ちょっと止まって焔! 結希が怖がってる! (ワン! )』


レミが近づいてくるその人に話すと、その人は一度動きを止め、


「わわっ! しぃー! レミ、吠えるなって言ったろ! ったく…。」


そう言って再び歩きだす。


どうやらレミの声は聞こえないようだ。


『止まってってば! (ワン! ワン! )』


レミは必死に訴える。


「わっ! だからレミ、ほ━。」



バァン! ドカッ。



「えがっ! 」


男の人のレミに対しての抗議は、ドアを蹴破って入ってきた女の人に背後から攻撃されたことにより、強制終了する。

しずく! (ワン! ←雫にはこう聞こえる)』


「な、なにすんだ…雫…。」


レミは嬉しそうに、男の人は起き上がりながら、女の人の名前を呼ぶ。


「雪菜にお前を連れてこいと頼まれたんだよ。いい加減、子供じゃないんだから、注射くらい慣れろ。」


呆れたように女の人は話す。


長い黒髪のポニーテールに忍者のような格好。


私は、この人にどこかで会ったことがあるような気がした。


「あんなの、人を治療する道具じゃねぇ! 凶器だ! 」


「はぁ…どんなに刀で斬りつけられても平気なくせに、なぜ注射はダメなんだ…。…ん? あ! 起こしてしまったか! 騒がしくしてすまない。」



呆れたように話していた女の人は、私を見て申し訳なさそうにそう言う。


「その子、俺がこの部屋に来た時はもう起きてたぜ。いろいろ聞こうと思ったのに、レミや雫が邪魔するから、何も聞けなかったじゃねぇか。」


男の人はため息をつきながら言う。


「人のせいにするな。この子、怯えてるじゃないか。お前、何したんだ。」


『止まってって言ってるのに止まってくれないからでしょ! (ワン! ワン! )』


「な、何もしてねぇよ! ただ話そうとしただけだ! レミもなんだ! 俺が悪いって言うのか!? 何もしてねぇよな!? な? 」

2人に責められ、男の人は私に助けを求めてくる。


私はおずおずと頷いた。


「ほ、ほら見ろ! 俺は何もしてねぇって言ってる! 」


「こいつが怖くて頷いたなら、無理しなくていいぞ? 」


「そんな訳ねぇだろ! 」


私は首を横に振る。


「ほら! 違うって━。」


「分かったから少し黙ってろ、焔。」


男の人の抗議を女の人の声が遮る。


「怖がらせてすまなかった。こいつも私も、決して危険な奴じゃない。あんたの味方だ。だから、安心してくれ。私の名前は雫でこいつの名前は焔。その子犬はレミだ。あんたの名前を教えてくれないか? 」

女の人は、私に優しく微笑みながらそう言う。


「……私の名前は、姫川結希です。あの…一体ここは何処なんですか? 」


とりあえず、この人達は危険な人ではない。


そう思った私は自己紹介を軽くして、質問をぶつけてみる。


「ここがどこが、か…。」


「それは旭が説明するわ。」


「げ! 雪菜! 」


雫さんが答えにつまっていた時、茶髪のツインテールの上にバンダナをかぶった女の人が現れた。


焔さんはその人をみて青ざめる。


雫)「でも旭、ここに来るのか? 」



ガシッ。



「来るわけないでしょ。あいつ、焔を捜してた私に、その子が目を覚ましたら、連れてこいって言ったのよ。」


焔さんの後ろから、服の襟をつかみ、ため息混じりに女の人は言う。


「は、離せ! 」


焔さんは逃げようと必死に暴れる。


「はいはい。あんまり暴れると、凍らすわよ。」

焔さんをひきずりながら、女の人は話す。


そして、ドア付近で一度立ち止まり、


「雫、悪いんだけど、その子を旭の所に連れてってくれる? 私達も後から行くから。」と、言った。


「それは別に構わないが、動いていいのか? 」


「大丈夫。もし、体力が戻っていないようだったら、おぶってあげて。」


「分かった。」


「んじゃ、よろしく。ほら、さっさと行くわよ! まったく…。」


そう言って、女の人は焔さんをひきずって部屋を出て行った。



焔)「いぃぃやぁぁだぁぁぁぁぁ! 」


焔さんの悲痛な叫びが遠くなっていった。


「まったく…。結希…だったな。立てるか? 」


「はい。」


「んじゃ、これから旭のところに行くからついてきてくれ。結希の疑問は、多分、旭が全部解決してくれると思う。」


「分かりました。」


レミが私の膝から飛び降りる。


『何で私と話せるのかも分かるるかもしれないね! 』


雫さんとレミが歩きだす。

私も少し遅れて歩きだした。


[つづく]

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