第5話子犬

「━い。おい。」


体を揺すられる感覚と同時に誰かの声がする。


「う…。」


私は少し目をあけた。


長い黒髪をポニーテールにした、忍者みたいな格好の女の人が私を覗きこんでいる。


「よかった。気を失っていただけみたいだな。」


女の人は安心したように言う。


そして、私は再び気を失った。



ーーーーーーーーーーーー


「う…ん…? 」


私が再び目を覚ました時、見知らぬ部屋の天井があった。


私は体を起こす。


「ここ…どこ…? ……あれ!? ない!? 」


私が、束ねていたはずの髪がほどかれ、首にかけていたはずの首飾りがないことに驚いていると、


『ん…、あ!起きたんだね。ごめんごめん、一緒に寝ちゃってた。』


どこからか、声が聞こえてきた。


「え…。」


この部屋には私以外、誰もいない。


いるとしたら、ベットの横に白い子犬が……子犬? なんでここに子犬が?


私は子犬と向き合う。


『気分はどう? 』


再び聞こえた声と同時に、子犬が首をかしげる。


まるで、子犬が喋ったみたいだ。


「誰!? 」


私は部屋を見回しながら、そう聞いてみたけど、やっぱり部屋には誰もいない。


『ん!? もしかして、聞こえてるの? 』


聞こえてくる声は私に問う。


「きっ…聞こえてるけど…誰? …どこにいるの? 」


私は再び、部屋を見回す。


『本当に!? どこ…って、あなたの目の前にいるよ? 』


「目の前?目の前って…。」


私の目の前には子犬しかいない。


しっぽを凄く振っている。


どうやら機嫌がいいみたいだ。


『そうだよ! 私だよ! 』


子犬はさらに強くしっぽを振る。


「え…ええーっ! い、犬が喋った!? 」


ようやく声の主は分かったものの、それが実は子犬でした、というあり得ない状況。


『喋るっていうより、テレパシーに近いけどね。女王様が死んで以来、私の声が聞こえる人は誰もいなかったから、嬉しいよ! 話しかけ続けた甲斐があった。』


そう言って、子犬は私の膝に飛び乗る。



「ほ、本当に君が喋ってるの? 」


私は子犬を見ながらそう聞く。


子犬も私を見ている。


『うん。そうだよ。』


声が…いや、子犬がそう答えた。


どういうことなのかは分からないけど、とりあえず、この声の主は子犬なのだ。


『あ! そうだ、髪ゴムはそこの引き出しの2番目にあるよ! 』


子犬は短い左前足で、ベットの横の引き出しを指す。


開けてみると、確かに、私の髪ゴムがあった。


『私はレミ。あなたの名前は? 』


髪を結んでいる私にレミは聞く。


「私は結希。姫川結希ひめかわ ゆうき。…ねえ、ここはどこなの? 」


危険な場所ではないことは分かるけど、知らない場所だということは変わらない。


しかも、私はついさっき、二度も危険な目にあったのだ。


ただの部屋ではないはず。


『どこって言われても、私達の家の部屋…としか…。』


困ったようにレミは話す。


「家? 私達ってことはレミの他にも誰か住んでるの? 」


『うん。確か結希を助けたのは━。』



バン!



その時、レミの言葉を遮るように、ドアが開いた。


[つづく]

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