第1章〜出逢い〜 第1話呼ぶ声
夏。さっきから蝉がうるさい。しかも、段々と増えているような気がする。
「あっつ…。」
言葉にするほど、体感温度は上がるというのに、口に出さずにはいられなかった。
「もー! 言わないでよお姉ちゃん! もっと暑くなるじゃん! てか、さっきから絵美しか作業してないじゃん! お姉ちゃんもちゃんとやってよ! 」
蔵の入口に座っていた私に向かって、妹の
「ちょっと涼んでただけじゃない。やればいいんでしょ、やれば。」
私はやれやれと腰をあげて、2階へあがる。
「大体なんで、蔵を掃除しなきゃいけないのよ…。別にほっといてもいいような気がするんだけど。」ため息混じりにそんな独り言を言ったものの、お婆ちゃんに頼まれたのだから、やめる訳にはいかない。
ご褒美をもらえるというならなおさらだ。
そんなことを考えていた時、
『…ガ……ヨウ…。』
「ん? 今、何か聞こえたような…。絵美ー何か言ったー? 」
私は1階にいる絵美に叫ぶ。
「何も言ってないし! もう! お姉ちゃん、いいかげん作業してよ! 」
絵美はさっきより苛立った声で、私に叫び返した。
「はいはい、わかりました。」
私は独り言のトーンでそう答えながら、棚の上にある箱を取ろうとした。
その時再び、
『……キテ…。』
「また! ちょっとー絵美ー本当に何も言ってないー? 」私は再度、絵美に叫ぶ。
「言ってないってば! いいかげんにしてよお姉ちゃん! 」
これ以上絵美を刺激するのは、やめた方がよさそうだ。
しかし、絵美でないとしたら、一体誰が言ったのだろう?
それとも、ただの空耳?
そんなことを考えながら、私は再び、箱を取ろうとする。
……が、届かない。
目一杯手をのばして、やっと箱に触れる程度。
仕方なく、少しずつ滑らせて、出すことにした。
「うーん…もう少し…。」
箱が傾くまであと少し、という所で、再びあの声が聞こえた。
『……キテ…。』
「へ? あっ…! きゃあ! 」
ガシャーン!
「ちょっ!? お姉ちゃん!? 大丈夫!? 」
音に驚いた絵美が叫ぶ。
「大丈夫大丈夫。ちょっと手が滑って箱を落としただけだから。」
私は箱があたった額をさすりながら答える。
「うそ! 箱は!? 箱は大丈夫!? 」
私より箱の安否を絵美は確認する。
「あーうん。大丈夫。お姉ちゃんは額を負傷したけどね。」
「よかった。お姉ちゃんは大丈夫でしょ。いいから作業して。」
「はーい。」
どうやら、絵美にとっては私の価値は箱以下らしい。
落ちてきた箱は、長い間棚の上にあったはずなのに、ほとんど埃をかぶっていなかった。
「何の箱だろ。これ。」
少しくらいならいいだろうと、私は箱を開けてみた。
「これは…首飾り? 」
中に入っていたのは、革紐に金色の宝玉が通された、首飾りのようなもの。
「何なんだろ、これ。」
そう言いながら、首飾りを手に取ると、
『……キテ…。』
また、あの声が聞こえた。
「さっきの…! 一体誰!? 」
そう、見えない相手に問いかけると、
『アナタガ…ヒツヨウ…。』
もう一度声が聞こえ、同時に、持っていた宝玉が光りだした。
「まぶしっ! 」
私には何が起きたのか、全く理解出来なかった。
さっきより少し蝉の声が少なくなったようだ。
でも、相変わらずうるさい。
高校1年の夏休み、蔵の掃除をしていた私に、これから、どんな運命がまっているのか、まだ誰も知らない―。
[つづく]
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます