第四章④
神(クソ親父)が自分から自分の天敵を創らないというのなら、既に神(クソ親父)に創られた、俺がそれになってやる!
「魔王になって、神を安全圏から引き摺り下ろしてやるっ!」
それが今の俺の、嘘偽りない気持ちだ。
それを聞いたモロは、
「ふふっ」
抱きついた俺の上半身と下半身が引き千切れるほどの力を込めて、
「あははははははははっ!」
猟奇的に、笑った。
その笑い声が、たった今モロに折られた背骨に響き、鈍痛へと変わる。
「あぁ。良い。実に良いぞぅ、コーイチ」
目を血走らせたモロが両手で俺の頭をつかみ、自分の額と俺の額を無理やりくっつけた。モロに折られた背骨を術で治癒させながら、たった今折れた首と現在進行形で破壊されている両側頭部にも治療と強化、補助を行う。あと少し術の発動が遅れていれば、俺の脳みそはモロの両手で頭蓋骨ごと押し潰されていたはずだ。
「そうじゃなぁそうじゃなぁ。神と同じ存在になるよりも、そちらの方がずっと面白いのぅ」
俺の顔を撫でまわしながら、モロは俺に微笑みかけている。
「……何なんだ。お前ら一体何なんだっ!」
それを見ていたカーネルが、絶叫した。
「狂っている。神に反逆する? 魔王になる? お前ら、一体何なんだよ!」
「おぉ、そういえばお前らがまだおったのぅ。忘れていたのじゃ」
モロが俺の顔から手を放し、自分の左手で俺の右手を握りつぶした。
その痛みに俺は眉を動かすこともなく、モロと手を握ったまま、二人でカーネルとブチの方に向き直る。
カーネルは理解できない存在を目の前にしたような、おびえた表情。ブチも流石に無言になっていた。
「大体、何でそんな話を、今までの話をここでするんだ? 何で私にこんな話を聞かせる!」
カーネルの疑問は、もっともだ。
カーネルが俺たちの決意表明なんて聞く意味はない。聞いても意味が分からないはずだ。分からなさすぎて、今のように怯えるだけだ。
だが、俺たちの目的は、まさにそれなのだ。
「決まってるだろ? お前たちが今日やったことは、今日までやってきたことは全て無駄だと知らせて絶望させるためだ。だから神(クソ親父)が奇跡を起こす気がないことを教えた後、お前らに理解不可能な話をして、弱った精神に畳みかけたのさ」
モロが術で風を起こし、カーネルをブチの隣に突き飛ばした。
「妾とコーイチを引き離そうとしたお前らを、ただで殺すわけがないのじゃ。絶望に突き落とした後、精神を殺した上で、さらに肉体的にも殺す。そうしなければ、妾の気が収まらんのじゃ」
俺たちが話しながらカーネルとブチに一歩、また一歩と近づく度、カーネルの顔が引きつっていく。一方、ブチは余裕の表情をしている。
「ちっちっちっちっち! ご主人様。どうやらこれでお別れみたいだっち。俺っちはこの辺で失礼させてもらうっち!」
「なんだと?」
「契約を、破棄させてもらうっち!」
ブチの突然の裏切りに、カーネルは激怒した。
「貴様! 自分だけ逃げるつもりかっ!」
「ちっちっちっちっち! ご主人様もミツチカに言っていたっち! 『悪魔は人間を都合のいい道具として今まで扱ってきた』。その通りだっち!」
「ふざけるなぁぁああああ!」
カーネルの怒号が響くも、ブチは全く意に介していない。
「それでは、俺っちはここいらで失礼するっち。最後にご主人様の絶望する顔も見られて、最高の契約だったっち!」
「貴様っ! 待てぇぇええええ!」
「さようならだっち~!」
そう言ってブチの姿は、消えなかった。
「ち? どういうことだっち! 契約が破棄できないっち!」
「それはそうだ。俺の術で、ブチを強制的にカーネルと契約させているのだからな」
戸惑っているブチに、俺は今ブチに起こっていることを説明してやる。
「契約を強制的に破棄させる術があるのなら、契約を強制的に結ばせる術があってもいいだろ?」
さらに言うなら、俺の鼓の量ならブチのように直接手で触る必要もない。
俺がモロと契約を直ぐに結び直さなかったのは、この術を使いたかったからだ。モロも術は使えたのだが、この術を使うためには『誰かと契約する』という強固なイメージが必要となる。俺とモロを強制的に契約させるイメージなら問題ないだろうが、俺以外の人間を契約して殺してきたモロに他の誰かと契約させるイメージを抱かせるのは、難しいと判断したのだ。
俺の話を聞いたブチの顔に、初めて本物の焦りが浮かんだ。一方、カーネルは一緒に破滅の道を歩む道連れを見つけた亡者の顔をしてる。
「ざぁんねぇんだったなぁぁああ! 愚図は所詮愚図なんだよっ! お前も道連れだっ!」
「これから死ぬやつが何を言っているっち! それに悪魔は痛みを感じても、死ぬことはないっち! お前が死ねば、どのみち契約は切れるっち!」
「いんや、そうはならんのぅ」
「ち?」
カーネルに勝ち誇ったような笑いを浮かべるブチに、モロは冷笑を向ける。
「忘れたのかのぅ。妾は実体化しておれば、鼓を持っている存在を、食らうのじゃぞぅ?」
「そ、それがどうかしたんだっち!」
「まだわからんらしいのぅ」
自分の仕掛けた罠にはまった獲物を見る目で、モロが笑いながらブチに絶望を突き付けた。
「悪魔も、鼓を持っておるんじゃぞぅ」
その意味を、モロが突き付けた絶望を理解したブチは、絶叫を上げた。
「ちーっ! 嘘だっち! でたらめだっち。そんなこと、悪魔が死ぬなんてこと、ありえないっち!」
往生際が悪く、ブチは逃げ出そうとするも、それは叶わない願いだ。何故なら既に、ブチの体は俺の術で捕縛ずみ。あの炎に取り込まれた以上、もう二度とブチは自由に動くことはできない。
「くそっ! こんな、こんなところでっ!」
カーネルが拳銃を取出し、俺に発砲した。全ての弾丸は飛び出した瞬間、生きている炎に飲まれて消える。
まだ持っていたのか。もはやそんなものでこの状況を打破できるわけがないのに、悪魔と魔術師そろって悪あがきとは……。
「もういい加減終わらせるか。モロ」
「わかっておるのじゃ。おお、そういえばお前は絶望する顔が好きだったんじゃのぅ」
俺は左手に白い炎を作り出した。
「じゃあ、終わりにしよう」
モロはブチの眼前に、鏡を術で作り出した。
「ほぅれ。これでお前は、お前自身の絶望した顔を見ながら死ねるぞぅ」
俺は左手をカーネルに、モロは右手をブチに差し出した。
「お前らの所為で、俺とモロは一時的とはいえ契約が切れた」
「妾たちの話を聞いた後なら分かるじゃろぅ? それが妾たちにとって、どれだけ辛いのかがのぅ」
「その罪は、お前の死を持って償わせるしかない」
「この罪は、お前の存在を消すことでしか償えんのじゃ」
「だから!」「じゃから!」
「俺の悪魔(女)に寂しい思いをさせたやつは死ねっ!」「妾の魔術師(男)に寂しい思いをさせたやつは死ぬのじゃっ!」
そしてカーネルはその存在をこの世界に残すことなく蒸発し。
ブチの方も、この世界から跡形もなく存在ごと消し去られた。
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