第四章②
まったく冗談じゃない。ただ暇を潰すためだけに俺を創るなんて、『神(あのクソ親父)』、マジで頭がイカれてやがる!
今まで知りえなかった神の本質と、俺が生まれた理由を聞き、カーネルは二の句も継げられないようだった。
「これが、俺がこんなフザケタ力を持っている、理由だよ」
「な、なら、これだけの力を持っているのなら、今すぐにでもマリーンになれるんじゃないのか? どうして神と謁見しないんだ?」
「バカか。何で俺が、わざわざ『神(クソ親父)』に自分から会いに行かないといけないんだ? 行くわけないだろ」
カーネルの疑問に、俺はため息交じりで答える。
「俺は神(クソ親父)に強すぎるぐらい強く創られた所為で、普通の人間としての生活を送ることは不可能だった。何故俺をこんな風に創ったのかと創られた直後に聞いてみたんだが、神(クソ親父)は、『ちょっと分量間違えちゃったかな、てへぺろ♪』とのたまいやがった。流石に俺もキレて一発ぶん殴ってな」
あぁあ、今でも思い出しただけで腹が立つ! もう二、三発ぶん殴っとけばよかったっ!
「それがまずかったのかは知らないが、その後俺はすぐに天使の手で時間が流れない、この世じゃないどこかに幽閉された。それからもう、アイツの顔は見ていない。ビビっているからなのか、アイツの方から接触もない。こっちから神(クソ親父)に会いに行けば顔ぐらい見られるのかもしれないが、アイツの顔なんて二度と見たくもないので、俺から接触しようとすることもない。だが、あそこに幽閉されてから、スカーレットと出会うまでは、かなり辛かった」
当時のことを思い出しながら、俺は歯軋りをしながら、あの時の絶望を語る。
「スカーレットが現れるまで、幽閉されてから何百年、誰とも話さず、誰にも触れられない絶望を、俺は味わい続けた。分かるか? この絶望を。生まれてから神と天使、人間じゃないとはいえ、あの神(クソ親父)は誰かと話すことを、自分以外の存在との交流を、俺にあえて教えた上で幽閉しやがったっ!」
自分以外の存在を知りながらも、それと触れることすら出来ない。なまじ精神も強く創られていたため、狂うことも出来なかった。
「さらにあの神(クソ親父)がさらにクソなところは、俺がどんな存在かを創った直後に教えたことだ」
普段モロに戦闘を任せているため、落ちこぼれと周りに認識されているが、俺に出来ない術はない。最強の魔術師として、最強すぎる存在として、俺は創られている。だが、
「逆に強すぎて、生きているだけで俺の体から漏れでた鼓が、俺の意思とは関係なく勝手に術となって溢れ出ちまうのさ」
俺が歩けば大地は燃え尽き、なでた風は凍りつく。俺のそばにいる人を、俺が存在するだけで殺してしまう。
「だから俺が、この世じゃないどこかから抜け出せたとしても、抜け出した先にあるこっちの世界に、俺の居場所は存在しない。それに気づかせるために、あえてアイツは俺がどんな存在かを教えやがったんだ!」
本当に、アイツは性格が悪すぎる!
「幽閉されている間誰とも触れることのない絶望を、あの神(クソ親父)は俺に与えた」
この世じゃないどこかからの脱出は、俺の術で容易に可能だったはずだ。
「だが、そもそも外に出るためには俺の膨大な鼓をどうにかしなければ、俺は外に出ることは出来ない。いや、出る意味がない」
鼓をどうにかしなければ外に出たとしても、俺の制御できない術で周りの人を全て殺してしまうため、結局誰とも触れることが出来ない。
だからといって外に出なければ、この世じゃないどこかには俺一人しかおらず、結局誰とも触れることが出来ない。
どちらに転んだとしても、結局誰とも触れられないという二段構えの絶望。俺は正気を保ったまま、数百年も孤独で生きていかなければならなかった。
「そこに現れたのが、スカーレットだ」
当時、こっちの世界で最強の魔術師だったスカーレットが偶然俺の幽閉されている、この世じゃないどこかに現れたのだ。
「初めて会ったときは、かなり驚いた。流石に最強を名乗るだけ合って、俺が限界まで鼓を抑えれば、母親(スカーレット)となら会話することが出来た」
まさか手加減していたとはいえ、俺の術と真っ向から勝負できる普通の人間が要るなんて驚きだった。
「そこで俺は頼んだのさ。ここから出たい、助けてくれ、って。その時引き合わされたのが、モロだった」
「引き合わされた? 引き継いだ、の間違いじゃないのか?」
「妾はスカーレットとは契約しておらん。後にも先にも、妾が正式に契約したのはコーイチだけじゃ」
カーネルの疑問に答えたのは、モロだった。
モロはゆらりと俺に寄り添った。既に俺は、モロを実体化させている。
「妾もコーイチと同じく神が暇つぶしに創った存在でのぅ。妾の方が先に創られておるので、妾はコーイチのお姉さんになるのじゃが」
モロが口に右手の袖を当て、クスクス笑っている。
「じゃが、妾とコーイチでは創られた目的が違っていてのぅ。妾の場合、神が術師に興味を持ったため創られたのじゃ。自分が創った人間が、なにやら面妖なことをしておったのが気になり、自分も混じりたくなったのじゃろう。自分の創った新しいルールを世界に加え、人間と悪魔が契約出来るようにしたのじゃ。それから、神は定期的に何体かの悪魔を創るようになった。その内の一体、神が思いついた最強の悪魔が、妾じゃ」
俺の生み出した炎と炎がぶつかり合い、火花が散った。放って置くとこの炎は何でもかんでも捕縛しようとするため、こまめに行動を制限させる必要がある。
「妾を最強の悪魔として創った後、神は新しく手に入ったおもちゃを見せびらかすように、すぐさま妾を人間と契約させようとしおった。自分が創ったルールがちゃんと動いておるのか確かめる目的もあったのじゃろう」
当時のことを思い出しているのだろう。モロの顔に憂愁の影が差した。
「じゃが、契約は失敗しおった。妾を実体化させるために必要な鼓が足りなさ過ぎて、契約しようとした人間の、マリーンの寿命、存在まで奪いつくして殺してしまったのじゃ。あの時のルールでは、代償に今その時人間が持っている鼓以外選べんかったのでのぅ。その結果を見た神は、『お前を最強の悪魔にするため、常に鼓を求め続けるように創ったんだ。それが原因で、こんな結果になっちゃったんだろうね。仮に実体化できたとしても、お前は鼓を持っている存在に触れた瞬間、その存在の鼓を奪い、足りなければ触れた存在そのものを食べちゃうんじゃない?』と言いおった。そして、こう続けたのじゃ!」
そう話したモロの表情は、次の瞬間羅刹悪鬼のものになる。
「『こうした方が面白くなると思っていたんだけど、思っていたよりもつまらないなぁ。もうお前にも飽きちゃった♪』と、そう言いおったのじゃ! そしてあやつは、一応創ったものだからと申し訳程度に契約のルールを追加しおった。未来分の鼓も差し出せるようにし、鼓以外のものでも、悪魔への代償として認められるようになったのじゃ。妾を除いてのう!」
モロの神への怨嗟は止まらない。
「まったく、ふざけるでない! あやつの都合で勝手に創って、興味を失えばとっとと捨て去るとはっ! 妾を契約のルールから適応外にしたのも、単にあやつが妾のことを忘れておっただけじゃ! 育児放棄どころの話ではないのじゃ! コーイチはあやつのことを父と呼んでおるが、妾には無理じゃ! あやつは親ではない! あやつに、あんなやつに何かを創る資格などないのじゃっ!」
一気にまくし立てたモロは一転、迷子がようやく自分の母親を見つけたように俺にすがり付いてきた。
「そこからが、妾にとっての地獄じゃった。マリーンとの契約に失敗した後、妾は最強の悪魔として魔術師の間で知られるようになった。マリーンの存在ごと妾が食ろうてしまったため、妾がマリーンを神の元に導いた、あるいは悪魔に堕としたように、他のものには見えたのじゃろう。今は妾がマリーンと一時的に契約したことは省かれ、妾が最強の悪魔であるということと、妾と契約すれば神と謁見できるということのみが伝えられておるがのぅ」
モロはため息を付き、寂しそうに笑った。
「元々神は妾を創る前に、天使を使って術師たちに奇跡の権利について吹聴しておった。じゃから魔術師になろうとする人間は、こぞって妾と契約しようと、妾の名を呼んだ」
俺は右手で、そっとモロの左手を握った。
「じゃが、そもそも妾は神から、妾がどんな存在なのか伝えられぬまま放置、捨てられたのじゃ。人間が妾を契約するために呼ぶので、そこでようやく自分が悪魔だということを知ることができたのじゃ。そして、人間は悪魔との契約を求めていることものぅ。じゃから、妾は妾を求める人間の期待に答えたかった。名を呼ばれれば、どこにでも駆けつけたのじゃ。妾が生まれた意味は、人間と契約するためなんじゃと、そう思ってのぅ」
だが、その結果は、
「全員死んだ。あっけなく死んだ。マリーンと同じように、妾が殺したのじゃ。悪魔として生み出されたのにもかかわらず、妾は誰一人として契約することが出来なかったのじゃ。初めは信じておった。いつかは妾と契約してくれる、妾を満たしてくれる存在が現れるとのぅ。じゃが、すぐに諦めた。諦めなければ、希望を持ったまま誰かを殺すのは、もう妾には無理じゃった!」
世界を侵しつくせる炎の中、モロは自分の寒さを紛らわすように、既にモロの左手を握っている俺の右腕に、自分の右腕を絡ませた。
「そこから、ただ人間に呼ばれるだけの日々が、何百年も続いたのじゃ。呼ばれた数だけ人を淡々と黙々と、ひたすら殺していったのぅ。目の前に妾以外の存在がいるに、触れることすら出来ん。例え実体化できたとしても、触れた瞬間、妾がその存在を食い殺してしまう。妾には、もう誰とも触れることが出来ない、誰かの熱を感じることは無理なのだと、諦めておった。そう。コーイチと出会うまでは、のぅ」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
今まで黙って、というよりも呆気に取られていたカーネルがモロの話をさえぎった。
話をさえぎられたモロは、不機嫌そうな顔をしている。
「なんじゃい、うるさいのぅ。これからがいいところじゃというのに……」
「姫の話を聞く限り、姫との契約には鼓が必要とのことでしたよね?」
「その通りじゃ」
「だったら、おかしいじゃありませんか!」
「何がじゃ?」
「姫は私が契約を迫った時、こうおっしゃられておりましたよね? 契約の代償はマリーンになることを破棄することだと。先ほどの話と矛盾します。どうやってこの小僧は、姫と契約しているのですか?」
……中々諦めが悪い男だ。
カーネルの疑問を聞いて、俺が思った感想だ。
神(クソ親父)がルールの追加にモロを対象の範囲外にした時に、カーネルはこの疑問を持ったはずだ。だが、すぐには言わず、このタイミングで切り出してきた。
尋ねたカーネルの口調は落ち着いたものだったが、モロの話をあえてさえぎり情報を引き出そうと、どうにかこの状況から逆転の芽を探しているのだろう。契約している悪魔と同じく、いい性格をしている。
だがモロからのこの疑問の回答は、よりカーネルを絶望に追いやるものになる。
「妾は別に矛盾したことは言っておらんのじゃ」
「ど、どういうことですか?」
「そもそも、マリーンとは、どんな存在じゃったかのぅ?」
「ま、まさか……!」
マリーン。それは、神に謁見できるほどの力を手に入れた魔術師の称号だ。
つまり、
「そうじゃ。『マリーンになることを破棄すること』とは、神に会いにいけるだけの力を、膨大な鼓を妾に提供し続けることを意味しておるのじゃ。妾が実体化するためには、それほどの鼓が必要でのぅ。そしてそんな膨大な量の鼓を提供出来る人間など、この世にコーイチ以外存在しないのじゃ。さらに、コーイチの鼓は妾を実体化させたとしても、まだ余っておる。具体的な量を言うなら、妾が触れても、死なんぐらいの量じゃのぅ」
俺の腕を抱いたモロの腕に、力が込められた。
「じゃから、妾はスカーレットには感謝してもしきれん。面白半分で妾を呼び出したと知った時には殺してやろうかと思ったものじゃが、出会った妾の話を聞いてくれただけでなく、妾がこれ以上人を殺さんでもいいよう自分の契約した悪魔だと魔術師たちに広め、匿ってくれてのぅ。さらには契約に呼ばれることがなくなった妾が寂しがっていると思い、度々契約すると呼び出しては話を聞いてくれたのじゃ。その上、妾が契約出来る人間と、コーイチと出会わせてくれるとは……」
モロが顔を伏せ、自分の腕に、さらに力を込めた。
「コーイチが、妾を絶望から救ってくれたのじゃ。妾はコーイチにしか触れられん。コーイチしか、妾に温もりを与えてくれるものはおらん。コーイチがいなくなってしまえば、妾はまた絶望する。もう、戻りとうない。あの頃に、自分以外の存在が目の前にいるのに、誰かと触れ合えない、ただ見ているだけの日々に、戻りとうない……」
モロは、自分で力を込めていることに気が付いていないのだろう。モロがほぼ全力で、俺の腕を抱く。
俺は自分の骨が軋む音を聞いた。痛い。
瞬時に俺は術で自分の腕の強化を行うが、モロの力に押される。世界を侵しつくせるほどの炎を発生させた鼓と同じ量で術を発動させているのだが、間に合わない。
そしてついに、俺の骨が折れた。折れた瞬間に術で回復させるも、すぐにまたモロに折られてしまう。
実体化したモロは、鼓を持っていないモノなら問題なく触ることが出来る。例えば朝食を準備するための包丁やフライパンなどがそうだ。さらに鼓から発生した術も鼓を含んでいないため、俺やモロが起こした炎には触れる。元から鼓を持っていないモノに触れても、モロはその存在を食わずにすむ。
だが逆に、俺のように鼓を持っている存在に触れた場合、鼓を食おうとする。
俺の場合食われる鼓の量は問題ないため、俺の存在が食われる心配はない。問題があるのは、モロが触った場所だ。
モロは自分が触れた場所から鼓を食らう。そのため、モロが触れた場所に術をかけようとすると、その術に使うはずだった鼓が術を発生させる前にモロに食われ、うまく術が発動できなくなるのだ。
その結果、俺は今最強の悪魔であるモロの全力をほぼ術の補強なしに魔術師ではない人間と同じ状態で受けている。
「……絶対嫌じゃ。戻るなんて嫌じゃ。死んでも嫌じゃ。嫌じゃ嫌じゃ。離しとうない。この温もりを。この熱を。この手を。この腕を。この体を。コーイチを。死んでも離しとうない。嫌じゃ。離せるわけがない。離せるものか」
喋るモロの呼吸が荒くなる。荒くなる分、さらにモロの腕に力が籠められる。
「……コーイチじゃ。コーイチだけじゃ。コーイチだけなんじゃ。コーイチ。妾が触れれるのは、コーイチだけなんじゃ。妾に触れていいのも、コーイチだけなんじゃ。それ以外いらんのじゃ。コーイチ。コーイチ。妾のコーイチ。妾のじゃ。コーイチ。離さん。コーイチは妾のじゃ。コーイチ。妾のものじゃ。妾のコーイチじゃ」
うつろな目でつぶやくモロの声と共に、また右腕の骨が折られた。このままにしておけば、そのうち俺の右腕は引き千切られるだろう。
この状況を抜け出すのは簡単だ。腕を振り払い、モロから離れればいい。
だが、そんなことは俺には出来ない。
「それは、俺も同じだよ。モロ」
何故なら俺も、モロを求めていたから。
「俺は母親(スカーレット)と出会うまで、自分の鼓を持て余していた。これをどうにかしない限り、俺はこの世じゃないどこかから出ることが出来なかった。そこで母親が提案してくれたのが、悪魔との契約だった」
神(クソ親父)に創られてすぐ幽閉された俺は、最強の魔術師として創られたのにもかかわらず、悪魔を見たことも、悪魔と契約したことがなかったのだ。
「母親(スカーレット)から契約の説明を受けた俺は、これしかないと思った。俺が日常生活を送るために邪魔な鼓を、悪魔に受け取ってもらう」
だが、そこにも問題があった。
「俺の受け取ってもらいたい鼓の量が悪魔の持つ鼓よりも多くて、俺と契約出来る、俺がこっちの世界で普通に暮らすために邪魔な鼓を受けきれるだけの悪魔が、中々見つからなかった。俺の鼓に呑まれて契約した悪魔が存在が保てず、死んじまう」
だから俺はミツチカと契約しなかったのではなく、出来なかったのだ。契約したとしても、俺の膨大な量の鼓で殺してしまうだけだというのが分かっていたから。
ブチに刺された場所を俺が抑え続けていた理由も、俺の鼓に関係している。モロとの契約が不安定になったため、俺の中から鼓が漏れ出していたのだ。術の素となる鼓が溢れ出してしまうと、俺の意思とは関係なく術が発動しかねない。
「俺の鼓の量にあきれた母親(スカーレット)が引き合わせたのが、モロだった。俺はようやく、俺を受け止めてくれる悪魔と出会えたんだ」
俺は今のようにモロに右手を引かれながら、この世界に出ることが出来た。
モロと契約することで、俺はこの世界に出てこれただけでなく、世界を滅ぼさない程度の弱い術も使えるようになった。悪魔と契約すれば、その悪魔の術が契約した魔術師に上書きされるからだ。
俺はモロと契約することで、俺より弱いモロの術が俺に上書きされたのだ。これで俺はモロと契約していれば、術を使ってもこの世界を滅ぼす心配からは解放された。
しかし、何とか自分で術を使えるようになったものの、この世界を壊してしまうかもしれないという恐怖から俺は今だ抜け出せず、自分で術を使うのを避け、戦闘はモロに任せていたのだ。
ようやく自分以外の誰かと触れられるようになったのに、この世界を滅ぼしてしまったら本末転倒だ。この世ではないどこかに閉じ込められていた時と、何も変わらない。
またあの絶望を味わうのは、死んでも嫌だ。
モロが俺に異常に執着しているように、俺もモロに異様に執着している。
もし仮に、俺が魔術師として最強に創られていなければ、強くなればあの幽閉状態から抜け出せるという状況なら、何かやることがあったのなら、もっと弱ければ、俺はこうはならなかっただろう。
だが俺は、遊び半分で神に魔術師として最強に創られた。ぐうの音も出ないほど、最強に創られすぎた。
それはそうだ。神が自分と同じくらいの強さを持つ存在として、俺を創ったのだから。
モロが全パラメーター全スキル上限までカンストしているゲームのキャラクターだとするなら。
俺はそのゲームを創った神(製作者)だ。
術は、その術を発動させるために必要なイメージと鼓があればどんなことでもできる力だ。
だから、その鼓が無尽蔵に沸いてくる俺に出来ないことはない。
何でも出来るが故に、何もする必要がなく。
何でも思い通りに行く故に、何かをすることに価値を見いだせない。
努力する機会を与えられず。
誰かと何かを積み重ねる機会を与えられず。
そもそも誰かと触れ合うチャンスを奪われている。
だから俺は、うらやましくてたまらなかった。
努力できるやつがうらやましい。
鍛錬できるやつがうらやましい。
まだ成長できる余地があるやつはうらやましい。
誰かと苦労を分かち合えるやつがうらやましい。
感情を共有できるやつらがうらやましい!
愚痴を言い合えるやつらがうらやましい!
その機会を奪われた、努力できる機会を、誰かと苦労を分かち合える機会を奪われた俺からすれば、その苦労が、苦難が喉から手が出るほど欲しくてたまらなかったっ!
一人で何でも、出来るってことは。
一人じゃなきゃ何にも、出来ないってことだから。
独りを選ばないと、いけないということだから。
孤独を選ばないと、いけないということだから。
でも。
一人じゃなきゃ、何にも出来ないというのなら。
二人じゃ何にも、出来ないというのなら。
だったら俺は、一人じゃ何も出来ない方がいい。
だから、俺は。
モロと一緒にいる、誰かと一緒にいる今の俺は。
一人じゃ何にも、出来やしない。
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