第三章⑨

俺の答えを聞いたモロは、

「……そうか。そうじゃのぅ。あたりまえじゃのぅ」

顔を、伏せた。

俺たちのやり取りを見ていたミツチカは、悪魔として相応しい笑みを浮かべた。

「そういうことだ、カーネル。お前に勝ち目はない」

「な、何故だ。何故なのですか姫! 何故こんな何も出来ない男に肩入れするのですか!」

カーネルに問われたモロは、伏せていた顔を上げる。上げた顔は何かを堪えるように瞳を潤ませていたが、それでもモロは胸を張ってカーネルに答えた。

「決まっておろぅ。お前の方が弱いからじゃ。妾は未来永劫、コーイチ以外とは契約せんっ!」

まったく、泣き顔まで綺麗だとか。反則すぎるだろ、こいつ。

「……いいかげんにしろ。今の状況を見れば分かるだろっ! 私が立っていて、このクソガキが地面に這いつくばっているっ! こ・れ・が・結果なんだよ!」

自分の思い通りに契約出来ないモロに対して、カーネルはとうとう我慢の限界を越え、モロに対しても怒鳴り散らし始めた。

「いいからさっさと私と契約しろ! 鼓でもなんでもいくらでもやるって言っているだろうがっ! お前ら悪魔は、私の言うことを黙って聞いていればいいんだよ! 自分で戦おうともしないやつなんか放っておいて、早く私と契約しろ! そうすれば、私は最強に、最強の魔術師になれるんだ。力が手に入るんだ! そうすればもう誰も、父上と母上も、私がビレッジ家の当主であることに異論は示さないっ! さぁ姫! 早く契約して、私を、私を最強の魔術師にしろよぉぉぉおおおお!」

「……ついに本音が出たようじゃのぅ。お前が欲しかったのは神から与えられる奇跡でも妾自体でもなく、妾の強さだけだったのじゃな」

カーネルは、当主の座を弟に、ジャックに奪われたのが許せなかったのだろう。それを今まで妬み、羨み、今まで生きてきたのだ。だから、強さに固執した。そうすれば、自分を認めなかった父と母を見返すことが出来るから。

ミツチカは顔を伏せているため、今どんな表情をしているのか俺には分からないし、今どんなことに思いをめぐらせ、何を思い出しているのかも分からない。その思い出の中に、カーネルに同情するようなものも、ひょっとしたらあったのかもしれない。

だがそれを断ち切るように、ミツチカは顔を上げた。

既にカーネルは、ビレッジ家の当主だったジャックを殺している。悪魔にしては珍しく契約した魔術師に対しての仲間意識が強いミツチカは、ビレッジ家の悪魔として最後の責任を果たすべく、決意を固めたのだ。

「コーイチよ。時間がない。さぁ、早くワタシと契約をっ!」

「やめろぉぉおおおお!」

カーネルの絶叫が響き渡る中、強い意志が込められた瞳で、ミツチカは俺を見つめている。

そのミツチカに俺は頷き、答えた。

「断る」

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