第11話


俺はいつものように0課にあるコーヒーメーカーでコーヒーを淹れていた。


毎朝やっていることだ。


いつもと変わらない、0課の朝。


机にコーヒーを置くと同時に、俺のパソコンにメールが届く。


どうやら柊かららしい。



柊が俺より先に来てないなんて変だとは思ったが…。



「何だ? 寝坊か? 風邪か? 」



そんなことを言いながら、メールを開こうとした時。



ガチャ。



「おはようございます。」



修が出勤してきた。


「ああ、おはよう。」


「どうしたんですか? 朝から珍しくパソコン見たりなんかして。」



修はそう言いながらコーヒーを淹れる。


「どういう意味だよそれは。柊からメールが、来たんだ。」



そう言って、俺はやっとメールを確認する。


「咲ちゃんから? 」



そう言って、修もコーヒーを持ってメールを見にきた。


そこに書かれていたのは。



【私がいつも乗っているバスがバスジャック。犯人は2人。拳銃あり。雷光町方面、杉沢さんもいっ】



という、途中で切れてはいたがかなり緊急事態の内容だった。


「藤井さん、これ…。」


「どうりで出勤してこねぇわけだ。最後のは竜も一緒にいるってことか? 」


「多分、そうだと思いますよ。」



そう言いながら、淹れたコーヒーも飲まずに準備を始める修。


冷静を装ってはいるが、相当焦っている。


「落ち着け修。まずは他の課の奴にも知らせねぇと。」


「でも早く行かないと…。」


「柊なら大丈夫だ。それに竜もいる。お前はまずそのコーヒーを飲んでから車をまわしといてくれ。」


「…分かりました。」



俺の言葉を聞いて、修は不服そうに言うのだった。
















「来たな。」



あいつに銃を突きつけた犯人がそう言う。


髪を赤く染め、指輪やピアスをジャラジャラつけた派手な奴だ。


今、俺たちの乗っているバスはバスジャックされている。


俺は本来ならこのバスに乗るはずはなかったんだが、自転車がパンクしていたせいで乗る羽目になった。


乗車してみれば朝からあいつに会うし、バスジャックされるし、最悪だ。


おまけに、スマホまで取られて連絡もできねぇ。



「あ? 」



俺がスマホを取ったもう1人の犯人を見ていると、そいつに睨まれる。



…ちっ、本当に最悪だ。


すぐにでもこいつらを取り押さえたいが、銃を持っているし、乗客もいる以上、うかつなことはできない。


それにあいつも捕まりやがった!


警察だということもばれた。


しかもー。






数時間前。



『よし、それじゃあそれでメールを送れ。」



犯人に言われるま、メールをおくるあいつ。


『…そういえばお前、2人で座ってたよな。』




犯人は思い出したようにそう言うと俺の方を見る。


『…もしかして、あの男もサツか? 』



その言葉を聞いて、もう1人の犯人が俺に銃を向ける。


『…いいえ、人が沢山いたので相席していただけの赤の他人です。』




なっ…。





動じることなく、メールを打ちながらそう言うあいつ。


『本当か? もし仲間を庇ってんならー。』


『送りました。これでここに警察が来ます。それから。』



あいつは犯人の言葉を遮り、そう言う。


『乗客全員の安全が確保できなかった場合は、あなた達を警察に突き出します。』



俺の方を振り返って、あいつはそう言った。


『…おい、やめろ。』


あいつの前にいる犯人がそう言うと、もう1人の犯人が俺に銃を向けるのをやめた。















…何を考えてる。


ここで乗客を解放するらしいが、自分はどうするつもりだ。


「順番に降りてください。」



あいつがそう言うと、前の奴から順番に降り始めた。


窓の外を見ると、藤井さんと修が見えた。


少し大事になっているみたいで、機動隊なんかも見える。



…もう少しで俺の番がくる。


何とかして最後に降りねぇと。




「…おい。お前の番だ。降りろ。」


「…ああ、悪りぃけどとばしてくれ。靴ひもがほどけてすぐ降りれねぇんだ。最後でいいからよ。」


「…ちっ。次! 」



…こんなんでも何とか誤魔化せたらしい。


俺は靴ひもを結び直して座り直すと、あいつと目があう。


その目は、どうして、とでも言いたげだった。



いつもあまり表情を崩さないあいつにしては、珍しい表情だった。


「ったく、靴ひもは結び終わったか? 早くしろ。」



犯人に促され、俺は最後の乗客としてバスを降りていく。


外では最初の方で降りた2〜3人がようやく機動隊の方にたどり着こうとしていた。


俺はあいつのことが気になったが他人という設定を守るため、素通りして出口に向かう。


そして俺が出口の階段を全て降り終わった時。




ババババババババ!




どこからか銃弾の雨が降り注ぐ。


「きゃあぁぁぁ!」


「い、痛いよー! 」



すでに降りた乗客にも、銃弾は降り注ぐ。


「藤井さん! 京極さん! 」



あいつの声に、俺は振り向く。


普段のあいつからは考えられないが、かなり動揺しているようだった。


「何だこれは…。」



犯人も状況が掴めず呆然としている。


「杉沢さん! 早く逃げて! 」



敬語も忘れ、あいつは俺にそう言う。


「くっ…こうなったらこのまま逃げてやる!

お前は道連れだ! 」



犯人はあいつを奥へ突き飛ばし、自分で運転席に座る。


「させるか! 」


俺は中へと入り、あいつを起こす。


「テメェ! 」


「行くぞ! 」



あいつの腕を引っ張り、出口付近まで来た時、腕から血を流した修一が目に入る。


「咲ちゃん! 」



もう少しで修一ののばした手に手が届く、というとこで。



プシュー。



犯人がバスのドアを閉め、発車させた。


「座れ。」



俺たちに、もう1人の犯人が銃を突きつけてそう言う。


窓の外では藤井さんが修一を押さえているのが見えた。


もう、銃弾は止んだようだった。




[つづく]

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