第10話



「テメェ…。」


私達の番がきたのだ。


あとは送信するだけだというのに、見つかってしまった。



「女! こっちに来い! 」


袋を持った男は拳銃をこちらに向け、そう言う。


私が素直に立ち上がると男に飛びかかりそうだった杉沢さんは驚いた顔をする。



「…すみませんが、一度でてもらえますか。」


「なっ…。」


杉沢さんが出なければ、私は通路に出ることができない。



「早くしろ! 」


杉沢さんは少し迷ったみたいだったが、通路に出た。


その瞬間、私は男に腕を掴まれ通路に引っ張りだされる。



「ったく…おい、お前も入れろ。」


通路に立ったままの杉沢さんに、男はそう言うが、杉沢さんは動かない。



「…駄目ですよ、従わないと。」


私がそう言うと、杉沢さんは驚く。



…今は、まだ何もしてはいけない。



「…ちっ。」


私の考えを分かってくれたのかどうかはわからないが、杉沢さんはスマホを袋の中に入れて席に座った。



「で、お前は何をしてた! 」


杉沢さんが席に座るのを見届けた男は、私の手から乱暴にスマホを奪い取る。


画面には、【送信完了】の文字。


男が杉沢さんに気をとられているうちに送信させてもらった。


その文字を見た瞬間、男は私を突き飛ばす。


「お前…。 」



床に倒れた私の頭に、拳銃を突きつけながらそう言う男。


「…上司にメールを。」


「ふざけてんのか! …んっ? 」



すると男は、私の胸ポケットから少しだけ見えた警察手帳に気づく。


「お前、サツか! 」



そう言ってさらに強く私の頭に銃口を当てる男。


「…提案があります。」


「うるせぇ! そんなの聞けるか! お前がサツってことは、メールを送った上司ってつまりは…。」



男は私の言葉を聞かずに銃の引き金を引こうとする。


そんな様子を見て、杉沢さんが動こうとしたその時。


「待て。」



赤い髪の男がそう言って、私を脅している男を止める。


「聞いてやるよ。何だ、提案って。」


「…乗客を解放してください。」



銃口を当てる力が少し弱まったので、私は立ち上がりながらそう言う。


「できるわけねぇだろ! そんなの! 」


「お前は黙ってろ。」



私に銃口を向けたままの男に、赤い髪の男はそう言う。


「…その代わり、人質は私1人だけにしてください。もし乗客を解放してもらえるなら、もう一度私の上司に連絡して、解放の場所を決め、あなた達が確実に逃走出来るようにします。」


「そんな要求のめるとー。」


「スマホを返してやれ。」



赤い髪の男は銃を向けている男の言葉を遮ってそう言う。


男は仕方なく、私にスマホを返した。


「女、こっちに来い。」



赤い髪の男に呼ばれた私は、運転席の方へ歩いていく。


「上司にはどんなメールを送った。」


「このバスを特定できる情報と、あなた達についてです。」


運転席付近にたどり着いた私に、赤い髪の男は質問する。


「ちっ。…さっき言ったこと、本当にできるんだな? 」


「乗客を解放してもらえるなら。」


「…分かった。メールを送れ。ただし、場所はこっちが決める。」




そう言った男と一緒に、私は藤井さんへのメールを打ち始めたのだった。






[つづく]


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