第9話ーバスジャックー


歓迎会も終わり、いつもの朝。


私は通勤の為、バスに乗っていた。


バスの中はいつも通り、人が増えていく。


だけど、今日は少しいつもと違うようだった。


「あ。」


「…おはようございます。」



乗ってきた人の中に、何故か杉沢さんがいた。


杉沢さんも少し驚いた様子だったけど、すぐに不機嫌そうな顔になり、私の席の横に立つ。


「……座ったらどうですか? 」


「は? 」



私の席は2人用なので座るよう勧めると、杉沢さんはそう言う。


「まだ着くまで時間ありますし。それにあれ。」



そう言って、私はまたたくさんの人が乗ってきたのを指差す。


「…ちっ、分かったよ。」



杉沢さんはそう言うと、すごく不満そうに隣に座った。


「……珍しいですね、バスなんて。いつもは…自転車でしたっけ? 」


「…ああそうだよ。何でか知らねぇけど今朝乗ろうとしたらパンクしてたんだよ。」


「そうなんですか。」



そんなことを話していると、バスが信号で停まる。


その瞬間、一人の男が席から立った。


男はそのまま運転席に近づき、胸元から拳銃を出した。


「なっ…! 」



私と同じく男を見ていたらしい杉沢さんは驚いている。


「バスを動かせ。」



男は拳銃を運転手に突きつけてそう言う。


「し、しかし信号が…。」


「いいから動かせ! 」


「は、はい! 」



拳銃で脅された運転手はそう言うと、信号が赤だというのにバスを発車させた。



突然のバスの無茶な運転に、クラクションが鳴り響く。


幸いにも、衝突することなく交差点を抜けることができた。


「「きゃああああ! 」」


「何考えてるんだ! 」



バスの中はパニックになっていた。


「うるせぇ、黙れ。」



そんな乗客を黙らせるかのように男がもう一人席から立ち上がり、拳銃をこちらに向ける。


「死にたくなかったら、今から俺が言うことに従え。」


髪を赤く染め、耳にピアス、指に指輪をたくさんつけるなど派手な容姿をしている。



「今からコイツの持つ袋に、お前らの持ってるスマホなんかの連絡手段になるやつ全て入れろ。もし入れなかったり、入れる前に連絡したりしたらその場で殺す。」


赤い髪の男はそう言いながら運転手を脅している男と役割を交代する。



「早く入れろ! 」


役割を交代した男は、袋を持って前の席から順番にスマホを集めていた。


短気らしく、拳銃で脅しながら急かしている。



…このままではダメだ。



そう思った私は、スマホを取りだし隠れてメールを打つ。



「ちっ…あいつら…。」


「落ち着いてください。何する気ですか。」


私はメールを打ちながら、今にも立ち上がりそうな杉沢さんにそう言う。


「何って、あいつら捕らえるに決まってんだろ。」


「拳銃を持っていない杉沢さんが、拳銃を持っている犯人をですか。それも乗客も無傷で。」


「うるせぇな。じゃあお前は何か策あるのかよ…って何してんだ。」


小声でそう言った杉沢さんは私の方を見て驚く。



「あまり見ないでください。怪しまれます。」


「分かってる…おい!」


私の言葉を聞いて前を向いた杉沢さんがそう言ったけど、遅かった。





[つづく]

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る