第56話 戦乱と少女1
フェーベンクロー皇国、モリアーナ帝国で仕事を済ませた私は、レフ、ライ、そしてピーちゃんとアクアを連れ、ティーヤム王国に帰ってきた。
すでにフェーベンクローとの和解が成ったとことが伝わっており、お城では大変な歓迎を受けた。
山のような報酬をもらい、王都を後にする。
途中、レフとライを彼らの村に残し、私はスティーロの街へ向かった。
「あの二人、村で受けいれてもらえて良かったね」
「そうね、ピーちゃん。
レフとライは、今回の遠征で、冒険者ランクも鉄から銅に上がったからね。
もう冒険初心者とは言えないしね」
レフとライは、今回もらった報酬の大部分を村のために使うと決めた。それも村長や親御さんの心を動かしたようだ。
スティーロが近づいてくると、街の入り口に門のようなものが立っており、横断幕が掲げられているのが見えた。
その周りに人がたくさん集まっている。
「何かしら?」
私の姿を見つけた町の人が騒ぎだす。
「竜騎士様が、お帰りだぞー!」
「メグミちゃんが、帰ってきた!」
「おい、歓迎の準備だ!」
入り口に立っている横断幕には、竜の絵と文字が書いてある。
私の名前みたいね。
「「「竜騎士メグミ様、おかえりなさい!」」」
「た、ただいま」
住民にもみくちゃにされている私を、ギルマスのヒューさんが、その大きな体で守ってくれる。
私たちは、人混みをかき分け、なんとかギルドにたどり着いた。
「「「メグミ、ピーちゃん、お帰りー!」」」
ギルドでは、顔見知りの冒険者が歓迎してくれる。
エマさん、ニコラ、ダンテ、ジェーン夫妻の姿もあった。
ダンテさんは、シェフの格好をしている。
「今日は、ここの厨房を手伝うから、思う存分食べてくれよ」
彼が相変わらずのいい声でそう言った。
「アイアンホーンのステーキが食べたい!」
ピーちゃんは、もうよだれを垂らしそうな顔をしている。
「ピーちゃんは、ステーキが食べたいそうです」
「任せとけ、この日のために、アイアンホーンの討伐隊が出たんだぜ」
「ええっ!?」
「メグミ、みんなあんたにゃ、感謝してるのさ。
それを受けとっておくれ」
エマさんは、彼女の胸に飛びこんだピーちゃんをハグしながら、そう言ってくれた。
「みなさん、またお世話になります」
「「「おおー!」」」
こうして、久しぶりの穏やかな日々が始まった。
◇
「あなたたち、お家のことはよかったの?」
私が呆れたような声を出しているのは、スティーロギルドにレフとライが訪ねてきたからだ。
「俺たちは、竜騎士メグミ
「メグミ様の行くところ、俺たちありですよ」
なんか、二人とも変なこと言ってるわね。
「おう、お
ヒューさんが、二人の背中をバンバン叩く。
「げほっ、は、はい、こんにちは」
「こ、こんにちは」
「グラントのヤツから頼まれてるからな。
お前らは、ビシビシしごくぜ」
「お、俺たちは、メグミ様と一緒に――」
「竜騎士様のお側に――」
「ガハハハッ、二人とも、竜騎士様を守りたいんだろう?
そんなら、まず自分が一人前にならなくちゃな。
幸い、この近くにゃ、最近新しく見つかったダンジョンもあるからな。
おう、みんな、こいつらをしごいてやってくれ!」
「「「おうっ!」」」
どうやら、ギルドに任せとけば、この二人は大丈夫みたいね。
「メ、メグミ様――」
「お、俺はメグミ様の――」
ベテラン冒険者たちが、二人を連れていっちゃった。
「あの二人らしいよねー」
ピーちゃんが、笑っている。
「レフ ライ カワイソウ」
ピーちゃんの頭に座っているアクアは、二人に同情したようだ。
「二人とも、冒険者として自分で生きていく力を身につけないとならないから、これは仕方ないわね」
だけど、私自身、これまでアクアとピーちゃんに頼って行動してきたから、将来の事を考えると、自分を鍛えた方がいいかもね。
◇
「メグミ、お皿を取ってちょうだい」
「はい、エマさん」
「おねえちゃん、これの切り方はこうでいい?」
「ニコラ、左手はネコの手にしないと危ないわよ」
「ネコって何?」
スティーロでは、ヒューさんの家に滞在しているから、いつも料理の手伝いをしている。
そして、それは私にとって、とても楽しい時間だ。
この家にいる時は、ピーちゃんもアクアも幸せそうだから、私たちは、ギルドにいる時間より、ここにいる時間の方が長い。
アクアは、庭にある小さな泉水が気にいって、ずっとそこで遊んでいる。
ピーちゃんは、暇さえあれば、エマさんにハグしてもらっている。
気持ちよさそうなピーちゃんを見たニコラが、エマさんにハグをねだり、二人してエマさんを取りあっていることもある。
私は、自分のために用意してもらった部屋を、可愛く飾りつけるのを楽しんでいる。
今まで旅の途中で買っておいた小物が、綺麗に並べられるのも嬉しい。
こうして平穏な日々が一か月ほど続いたとき、思わぬ知らせがギルドに舞いこんできた。
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