第53話 陰謀と少女6
王城の小門付近には、お掘りに沿って三万近い兵が展開していた。
跳ね橋が降りたらすぐに突入し、城を制圧する予定だ。
目の前で跳ね橋がゆっくり降りはじめ、兵士が歓声を上げる。
場内に突入してしまえば、クーデターの成功は間違いない。
いかに現皇帝の一族を苦しめて殺すか、サイラスはそれを想像し残忍な表情を浮かべていた。
「あはははは!
見ておれ、ダルメイ、積年の恨み、今こそ思い知らせてやるぞっ!」
恩赦で現皇帝に命を救われたことも忘れ、彼は笑いつづけるのだった。
◇
モリアーナ王城、その地下ではある生き物が目を覚まそうとしていた。
それは、普通の生き物と全く違う時を生きていた。
あまりに巨大なその生き物は、何百年、何千年かに一度わずかな時間だけ動くと、後はじっとしている。
休止しているとき、巨大な心臓は、ほとんど停まっており、生命活動を極力抑えるのだ。
動かない間は、その血液まで大部分が固体になっており、稀に動くときだけ、それが溶け液体になる。
ほとんどの人間は、伝説の中でしかその生き物の事を知らない。
この生物は、本来、あと数百年は動かないはずだった。
しかし、背中に何かの強いエネルギーを感じたことで、ゆっくり動きだした。
◇
緊迫した状況の中、袋からピーちゃんが顔を出した。
彼には珍しく、緊張した表情をしている。
「メグミ、何か下にいるよ」
「えっ?
下に?
何もいないけど。
それより、今は、この状況をどうするか考えないと」
「そんなことは、この際どうでもいいの。
こんな大きな力は、今まで感じたことがないよ」
「えっ?」
ドラゴンより大きな力?
私が驚いた時、足元が揺れだした。
「じ、地震!?」
足元の振動は、段々大きくなる。
「えっ!?
ど、どうなってるの!?」
ひどい揺れに立っていられなくなる。
横を見ると、仲間はもちろん、私たちを囲んでいたフルーマル配下の兵士も全員が地面に這っている。
揺れがさらに大きくなると、エレベーターで上昇するような感覚が襲ってきた。
なっ、なんなのこれはっ!
袋から飛びだしたピーちゃんが、地面に手と膝を着けた私を腰のベルトのところで掴み、さっと宙に上がる。
今まで何度かやった飛行法だ。
なぜか、今回は飛んでいるのが怖いという感覚は無かった。地面が揺れたのが、すごく怖かったから、そのせいかもしれない。
ピーちゃんが私を吊りさげ、城壁あたりに移動した時、私は自分の目を疑った。
城がその地盤ごと、おそらく何百メートルも、空中に持ちあげられているのだ。
「ど、どういうこと!?」
城の外側に出ると、ピーちゃんがぐっと高度を下げる。
「な、なにあれっ!?」
私が目にしたのは、巨大な何かだった。
お城は、その何かの背中に建っていたのだ。
それは、ゾウの背中にとまったハエのようだった。
ピーちゃんが、巨大な何かの周囲を飛ぶことで、やっとそれがどんな形をしたものか分かってきた。
それはものすごく巨大な六本足の亀というのが近いだろう。
ただ、ナスビのような形をしたその灰色の顔に目や鼻はなく、口のところに線はあるが、それが開くかどうか分からなかった。
しかし、その疑問に、すぐに巨大生物自身が答えてくれた。
ブゥモ~ン
大きな口が開くと、そんな声というか振動が、辺りに広がった。
その口から、薄緑色の煙が出ている。
「ぎゃっ、く、臭いっ!」
ピーちゃんがそう叫ぶと、ガクンと高度が下がった。
「きゃーっ!」
落下していく感覚を最後に、私は意識を失った。
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