第51話 陰謀と少女4

 大きなおじさんは、帝都騎士隊という組織の隊長さんだった。帝都騎士隊は、帝都周辺の治安を守る部隊だそうだ。


 私たちは、泉があった広場から、お城へと案内された。

 アクアは、まだ遊び足りなそうだったけれど、私たちが広場を離れる時、さっとピーちゃん袋の中へ飛びこんだ。


 豪華な客室でしばらく待たされた後、玉座の間へと案内された。

 今、私は玉座の前に立っており、トルネイたちは、片膝を床に着いた姿勢でいる。


 玉座には、三十歳くらいの顔立ちが整った男性が座っている。


「あなたが、竜騎士殿ですか?」


 皇帝陛下が、若々しい声で尋ねる。


「はい、初めまして。

 私は、メグミと言います。

 ティーヤム王国に残っていた、お国の兵隊さんたちを連れてきました」


 彼らが盗賊や悪人の手先になっていたことは、話さないつもり。

 

「お前たち、ティーヤムでのご苦労でした。

 長い事、大変でしたね」


 あら、皇帝陛下は、ティーヤムで彼らが何をしていたか、もう知っているみたいね。

   

「も、も、もったいないお言葉でございます」


 トルネイは、すごく緊張しているみたい。

 

「ところで、メグミ殿、それほど若いのに伝説の竜騎士と呼ばれるからにはなにか理由があるのでしょう?」


 皇帝陛下は、その身分にもかかわらず、丁寧な言葉づかいをするわね。


「陛下、それは、私がドラゴンと友達だからかもしれません」


「……ド、ドラゴン」


 陛下が黙ってしまう。

 私たちの両側に立っている貴族たちがざわつきだした。


「陛下、ドラゴンと友達など、嘘に決まっておりますぞ!」


 ぷくぷくに太ったおじさんが、こちらを指さしている。


「フルーマル殿、竜騎士殿に失礼ですぞ」 


 大きなブルケおじさんは、落ちついた声でそう言うと、私の目を見て頷いた。


「じゃが、こんな小娘が伝説の竜騎士などと、たわごとじゃろう」


「メグミ様が、竜騎士であるのは間違いのない事。

 そのお人柄も、竜騎士にふさわしいものです」


 トルネイが、頭を下げたまま発言する。


「ええい、下郎が何をほざく!

 大方、隣国におるときに、小娘の色香に惑わされたのじゃろう!」


 仲間に対するいわれのない悪口に、私は頭に血が昇ってしまった。


「いい加減にしなさい、太っちょさん。

 友人への悪口は、許しません」


「メ、メグミ様……」


 トルネイと私の目が合った。

 

「ピーちゃん、ここにいる皆さんに、ご挨拶してあげて」


「こんにちはー」


 ピーちゃんが、袋から顔を出した。

 彼の声は、私以外には、竜の唸り声として聞こえているはずだ。

 部屋がすごく静かになった。

 一人を除いて。


「なんじゃ、その小さな魔獣は?

 まさか、それがドラゴンなどと言うまいな?」


「私の友達、ドラゴンのピーちゃんです」


「がははははっ!

 馬鹿も休み休み言え。

 ドラゴンは、巨大な魔獣じゃぞ。

 カバンになど入らぬわ!」


 ピーちゃんが、袋から出て私の肩に座る。

 

「ど、ど、どうせ、ドラゴンに似た何か別の魔獣じゃろう!」


 黙っているけれど、ピーちゃんはプライドが傷ついたようだ。

 私の肩を離れると、部屋の中をぐるりと飛び、太ったおじさんの所に行った。

 彼の前に浮かんだまま、じっと目を見ているようだ。

 おじさんの黒目が上を向いてしまった。

 立ったまま気絶したようだ。

 ピーちゃんは、おじさんの髪の毛を鷲掴みにすると、私の肩に戻ってきた。

 おじさんは、見事な、おハゲさんだった。

 

「メグミー、これ何?」


「ああ、これはカツラと言ってね。

 頭の毛が薄くなった人が、かぶるものよ」


「人間は、変なことするんだね~」


 私のすぐ後ろにいた、ライとレフが笑いだした。

 もう、王様の前なのに。

 だけど、貴族もみんな笑っているから構わないかな。


「確かにドラゴンですね。

 この目で確かめましたよ。

 メグミ殿、我が国でも竜騎士としてお迎えします」


 皇帝陛下が、そうおっしゃった。


「「「おおー!」」」


 貴族や騎士から、歓声が上がる。

 トルネイたちが認められたような気がして、私は嬉しかった。

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