第46話 妖精と少女7

 侍女のアニタさんが赤ちゃんを隣の部屋に連れていくと、私はソニアさんにあることを申しでた。


「ソニア様、この国は、復興にお金が必要なのではありませんか?」


「はい、メグミ様、おっしゃる通りです」


「よろしければ、私にも少しお手伝いさせてくれませんか?」


「そうは言ってもメグミ、そなたは金があるようには見えぬぞ。

 その宝石も、メイドが見繕ったガラスじゃろう」


 公女様の娘クーニャさんが私の宝石を指さす。


「ああ、私が身に着けてるこれは、全部本物ですよ」


「ば、馬鹿を言うな。

 そんなものが本物なら、もの凄い価値になるぞ」


 ソニア様が、私の指にはめた指輪をじっと見ている。


「クーニャ、メグミ殿の宝石は、本物のようですよ」


「な、なんと!」


「これ、あるダンジョンのお宝なんです。

 詳しいことは話せないの」


「と、とんでもないお宝じゃな」


「だけど、この宝石や金貨は、私には不要なものなんです。

 どうか受けとってください」


 私は、カジノで手に入れた、宝石と金貨が入った大袋を取りだすと、その横にダンジョンで手に入れた金貨も一つかみ置いた。


「おや、これは見慣れぬ金貨じゃのう」


「本当ね、見たことないものね。

 色も金と言うより白に近いわ」


 ソニアさんが、金貨を手に取り調べている。


 この時、私は知らなかったが、これは古代魔術王国の白金貨で、一枚で金貨千枚の価値があるものだった。

 フェーベンクローは、これを元手に金融大国となるのだが、それはまた別のお話。


 ◇


「メグミ殿、お礼の言葉もありません。

 ぜひ、またフェーベンクローにお立ちよりください」


 迎賓館の前で、私たちは、公女ソニア様の見送りを受けていた。


「メグミ、また来てくれよ。

 わらわは、またピーちゃんと遊びたいのじゃ」


 最初ピーちゃんを見た時、気絶してしまったクーニャさんだったが、ピーちゃんの可愛さが分かると私が引くくらいピーちゃんにべたべたしていた。

  

「メグミ様、またマサ様に会いにきてください」


 侍女のアニタさんも声を掛けてくれる。

 私はみんなと言葉を交わすと、公女様が使われる馬車に乗りこんだ。


「次いらっしゃったとき、あなたに美しいと言ってもらえるような国にしておきます」


 公女ソニア様の言葉が胸に響いた。


 我々の一行は、来たときとは大違いのきらびやかさで大通りを城から遠ざかる。

 きらびやかさの原因の一つである、紋章がついた鎧を着た騎士たちに、道の両脇に並んだ人々から歓声が飛ぶ。


 行列は街道を進み、エルミの街に入った。

 ここに寄ると、次の目的地モリアーナ帝国まで遠回りになるのだけど、私がそれを強く希望したのだ。


 紋章の騎士が訪れるということで、街は凄い騒ぎだった。

 屋台がたくさん出て、まるでお祭りのようだ。


 以前この街に来た時、休息した広場は、出店で賑わっていた。

 その中央、噴水の横に演台があり、私と紋章騎士たちがその上に登る。

 広場は民衆で一杯だった。


「エルミの街を任されておりますワイムです。

 今日は、紋章騎士の方々が当地を訪れてくださいました。

 また、お知らせしたとおり、竜騎士様もいらっしゃっております」


 集まった民衆、特に若い女性から、すごい歓声が上がった。

 紋章騎士ってどこでも人気者なのね。


「紋章騎士スグリブです。

 こちらが、竜騎士になられたメグミ殿です。


 紋章騎士のみんなが私の周囲で膝をつく。

 集まった人々は、信じられないという顔でこちらを見ている。


「あ、あんな少女が?」

「なんで、竜騎士があんな……」

「エロル様は渡さない」


 若い女性たちが、視線だけで殺せるような目をこちらに向けている。

 この人たち、何か誤解してない? 


 ピーちゃんが袋からぴょんと飛びだすと、広場の上空をぐるりと飛んで私の肩に降りた。

 その頭には、水の妖精アクアが座っている。


 ざわついていた広場が急に静かになった。

 

「竜騎士様のお陰で、マサ皇太子さまは、妖精の祝福を受けられました。

 そして、竜騎士様は、この国の復興にも多大な援助を下さいました」


 スグリブの声が広場に響き渡った。  

 うおーっと聞こえるすごい歓声が上がる。


「皇太子さまが、妖精から加護!

 この国は安泰だな!」

「「「皇太子様、万歳!」」」

「「「紋章騎士様、万歳!」」」

「「「竜騎士様、万歳!」」」


「今宵は、公女様からも、祭りにご援助をいただいております。

 みな、楽しんでください」


 最後、街を治めるワイムさんの声でみんなの興奮がさらに高まった。

 陽気な音楽が流れだし、若者たちが踊りだす。

 それに、紋章騎士たちが加わる。

 取りまく民衆は手拍子をしている。

 それは、楽しく明るく、心浮き立つ光景だった。

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