第45話 妖精と少女6 

 公女様は、私の肩に乗る、青く透明な水の妖精アクアを見て、驚いているようだった。


「メグミ キレイ」


 アクアは私の左肩に立ち、イヤリングを触っているようだ。

 

「そ、その小さな方は?」


 公女様が尋ねる。


「私の友人です。

 水の妖精です」


「ワタシ アクア。

 メグミ トモダチ」


「アクア様ですか。

 私はソニアと申します」


 えっ!?

 どういうこと?

 公女様は、妖精の声が聞こえるの?


「ソニア フォーレサマ ノ ニオイ」


 公女様はなぜか玉座から降りると、私の前まで降りてきて、そこにひざまずいた。

 アクアがぴゅっと宙を飛び、公女様の美しい金髪にふわりと座った。


「イイニオイ」


 公女様は手を合わせ、祈る姿勢になっている。


「水の妖精様、私に目を下さった大精霊フォーレ様にお礼をお伝えください」

 

 公女様は、青い宝石の目からぽろぽろ涙をこぼしている。


「ああっ、目を下さったのが大精霊さまだとは!」


 彼女はなぜか、もの凄く感動しているらしい。

 私はその理由が分からず、ちょっとぼーっとしてしまった。


「メグミ様」


 騎士スグリブに声を掛けられ、はっと我に帰る。

 公女様は立ちあがると、私の手を取りこう言った。


「妖精の祝福を受けたあなたのお言葉、ソニアは謹んでお受けいたします。

 ティーヤム国王には、そうお伝えねがえますか?」


「はい、分かりました」


 彼女は、その後、玉座の前に立つと、凛とした声で宣言した。


「このお方、メグミ殿を当国でも竜騎士として認めます」


 貴族たち、騎士たちがどよめいた。

 その後、公女ソニアに手を取られた私は、玉座の後ろにある扉を通り、彼女の部屋へ招かれた。


 ◇


 公女ソニアの部屋に招かれた私は、彼女の娘さんも交え、三人でお茶をしていた。

 部屋には見るからにしっかり者の侍女が一人いて、その人がお茶やお菓子の用意を手際よく済ませた。


「アニタ、あなたもここへ座りなさい」


 公女様の言葉で、侍女が一つ空いていた椅子に座った。

 メイドはそういうことをしないと思っていた私は驚いた。


「メグミ、ティーヤムでは、皇太子に会わなんだか?」


 公女様の娘が、金髪をかき上げながら話しかける。


「はい、会いましたよ。

 彼のお陰で、私は大事なお仕事を済ませることができました」


「フフフ、シュテインはの、わらわの友じゃ。

 彼の婚約者セリカもな」


「あっ、セリカさんにも会いましたよ。

 いろいろ親切にしてもらいました」


「ああ、セリカさんともお知りあいでしたか。

 そうと分かっていれば、最初からお話をお受けしていましたね」


 ソニアさんが微笑んでいる。


「どうやら、そちと我らは、元々縁があったようじゃな」


 私は、『縁』という言葉を聞いて驚いた。


「この世界にも『縁』という言葉があるんですね」


 思わずそう言ってしまったが、私が異世界から来ているとばれるかもしれないと気づいた。


「ああ、もしかすると、お主も異世界から来たのか?」


 私はそれには答えず黙っていた。


「わらわの夫も異世界人じゃ」


 少女がそう言ったので、本当に驚いた。

 彼女が耳打ちすると、侍女は足早に続き部屋に入っていった。

 再び姿を現すと、その腕には、おくるみが抱えられていた。


 金髪の少女がさっと駆けより、メイドさんからおくるみを受けとる。

 彼女が私に手招きしたので、立ちあがり、おくるみを覗きこむ。

 そこには、黒い髪をした、すごくかわいい赤ちゃんがいた。


「わらわの息子、マサじゃ」


「うわー、可愛い!」

「うん、可愛いね」


 ピーちゃんも目を細めて赤ちゃんを見ている。

 子供がいるってことは、彼女は見た目より年上かもしれないわね。


 妖精アクアが、ふわふわ近づくと赤ちゃんの頬にキスをした。

 赤ちゃんの体がうっすら青く光った。


「マサ カワイイ」


 アクアは、赤ちゃんに触れたのが嬉しかったのか、リンリンと音を立て、クルクル空中を舞っている。


「……ク、クーニャ様!」


 メイド姿の侍女が、震えるような声を出した。


「どうしたのじゃ、アニタ」


「い、今、マサ様のお体が、青く光りませんでしたか?」


「おお、光っておったな」


「これって……」


「凄いわ、マサ。

 あなた水の妖精様から加護を受けたのよ」


 公女ソニアの目には涙があった。


「……なんと、そのような栄誉が我が子に下るとは」


「メグミ、なにもかもあなたのお陰よ」


 ソニアさんが、私を抱きしめる。

 私は温かい気持ちになるのだった。

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