第43話 妖精と少女4
迎賓館の中はとても豪華で、貧乏旅行をしてきた私には、少し落ちつかないほどだった。
ただ、戦争の後だからか、本来飾りや置物があったであろうスペースが空いていた。
ベッドの敷物もシンプルで、浴室のお湯も、私の部屋を除いては使えないということだった。
各自が割りあてられた二階の部屋で少し休むと、夕食のため一階の食堂へ降りた。
食堂の大きなテーブルに私たちが着くと、トルネイを連れた眼帯の騎士が入ってきた。
私は長いテーブルの一番奥右側に座わり、向かいにスグリブが座った。
私の右前、いわゆるお誕生日席には空席があるから、誰かまだ座るのかもしれない。
大きな長テーブルも四十人以上いる仲間が座ると、一杯だった。
部屋の奥側にある扉が開くと、美しい金髪の華奢な少女が入ってきた。
スグリブが立ちあがったので私たちも立つ。
彼をまね、少女に頭を下げる。
「ここでは、そうせずともよいぞ。
頭を上げよ」
見かけより落ちついた声がした。
頭を上げると、少女は頷き、私の右前に腰を降ろした。
スグリブが座ったので、私たちもそれにならう。
「トリアナン、ああ、いや、ティーヤムから来たそうじゃな」
彼女は私に話しかけた。
「はい、そうです」
「スグリブの話じゃと、ティーヤム国王からの親書があるとか」
「はい、私は冒険者でメグミと言います。
公女様にお手紙と言伝を直接伝えるよう指名依頼を受けました」
「母上に?
では、ここでは聞けぬのか?」
この人は、公女様の娘さんなのね。
私が黙っていると、彼女はため息をついた。
「まあよい、とにかく食事じゃ」
彼女の声で、どこからともなく現れたメイドたちが料理を用意する。
食事は美味しいが、種類と量が少なかった。
仲間のおじさんたちは、お腹が膨れないだろう。
食事の後、お菓子とお茶が出た。
それを食べていると、少女が再び話しかけてきた。
「ところで、先ほどから気になっておったのじゃが、お前はなぜそんな袋を抱えておる」
少女が、私が肩から下げたピーちゃん袋を指さす。
「友達が入っています」
「友達?
また、えらく小さな友達じゃな。
魔獣の子か何かか?」
「ええと、ピーちゃんです」
「ほう、
「はい、ありがとうございます」
「わらわにも、見せてくれぬか?」
目の端で、仲間たちの動きがピタリと停まるのが見えた。
「でも、ピーちゃんを見ると、みんなが驚くんです」
「わらわは、かわいいものが大好きなのじゃ。
早う見せてみい」
「う~ん、本当に驚かないでくれますか?」
「可愛いもので驚くはずがなかろう。
早う、ピーちゃんを見せやれ」
私が袋の蓋を開ける前に、ピーちゃんがぴょこんと顔を出した。
「あ~、よく寝た。
なんか、いい匂いがする。
メグミ、そのお菓子ちょうだい」
「はい、どうぞ」
前からガタンと音がしたので、そちらを見ると、スグリブさんが椅子ごと後ろに倒れていた。
公女様の娘はさすがで、じっと座ったままだ。
「ピーちゃん、この方に挨拶して」
「メグミー、挨拶しても聞いてもらえないと思うよ」
ピーちゃんの言葉で少女の方を見ると、彼女は座ったまま白目になり気を失っていた。
「だから言ったのに……失礼よね。
ピーちゃん、こんなに可愛いのに」
「ふふふ、そうかな~」
「ピー カワイイ」
いつの間にか水筒から出てきた水の妖精アクアが、ピーちゃんの頭にちょこんと座る。
おじさんたちからお菓子をもらったピーちゃんは、とてもご機嫌だった。
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