第41話 妖精と少女2

「メ、メグミさん、それは?」


 ライが、すごく驚いた顔をしている。


「向こうの水場で飛んでたのが、一人ついてきちゃった」


 青く透明な水の妖精が、鈴のような音を立て、私の周りを飛んでいる。 

 

「メグミー メグミー メグミー」


 もしかすると、私、妖精に懐かれてる?


「水の妖精らしいの」


「よ、妖精!」


「ええ、そうみたい」


「……」


「ライ、どうしてそんなに驚いているの?」


「妖精は人里離れたところに住んでいて、人の前には姿を現さないって聞いてます」


「ふ~ん、その辺りにたくさんいるのかと思ってた」


「妖精は姿を消すことができるそうですから、そうやって見えるようになっているだけで特別な事だと思います」


「そうなの?

 ねえ、あなた、姿を消せるの?」


 私がそう言った瞬間、青い妖精の姿が見えなくなった。

 鈴のような音はしているから、近くにはいるんだろうけど、全く見えない。

 袋から顔を出していたピーちゃんが、首を伸ばすと、ぱくりと何かをくわえた。


「ドラゴン ダメ!」


 甲高い声がすると、ピーちゃんの口に挟まれた青い妖精が姿を現した。

 ピーちゃんが口を開けると、ぴゅっと空に舞いあがる。


「ドラゴン ダメ!」


 妖精は、しばらく私の頭の上をくるくる回っていたが、やがて降りてきて肩にとまった。


「メグミ ミズ」


 腰に下げていた、小型の皮袋から水を少したらすと、さっとその下に飛びこんで、水を浴びている。


「ミズ イイ。

 ドラゴン ダメ」


「ピーちゃん、嫌われちゃったかもしれないよ」


「ふ、ふんっ。

 そんなヤツに嫌われても、ちっとも気にならないよ」


 ピーちゃんはそう言ってるけど、悲しい顔をしているから、強がってるだけね。


「妖精さんにも、名前をつけないといけないわね。

 何がいいかしら」


「メグミさん、妖精の声が聞こえてるんですか?」


 ライが、また驚いてる。


「ええ、聞こえているわよ。

 ライにも聞こえてるでしょ?」


「いえ、何も聞こえません」


「えっ!?」


「メグミ、妖精や精霊の声は、人間には聞こえないんだよ」


「ふーん、そうなんだ」


「きっと、その妖精がメグミを気に入ったから、声が聞こえるんだと思う」


「そうかしら」


「メグミ スキ。

 ドラゴン ダメ」


 妖精は、さっきくわえられたのが、よほど嫌だったのだろう。


「あなたの名前はアクアにするわね。

 アクア、ピーちゃんと仲良くしてあげてね」

 

「ナマエ ウレシイ!」


 アクアが二枚の羽根を震わせると、リンリンといい音がした。

 

「ピーちゃんも、アクアと仲良くしてあげてね」


「しょうがないな~、メグミの頼みだからね」


 ピーちゃんはそう言うと、袋の中に顔を引っこめた。


 こうして、水の妖精アクアが私たちの仲間になった。

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