第38話 神樹と少女13

 私は当惑していた。

 それはそうだろう。

 きんきらの服を着せられ、山車のようなものに乗せられている。


 その山車がまたキンキラで、見ていると目が痛くなりそうだ。

 六頭の白馬に引かれたそれが、ゆっくり目抜き通りを進む。


 道沿いには、人々が鈴なりで国の紋章が付いた旗を振っている。

 私の隣には、国王陛下が座っており、民衆へ手を振っている。


 なんなのこれは?

 生まれてからこの方、およそ華やかなことに縁の無かった私は、この状況が現実のものとは思えない。


「ティーヤム王国万歳!」

「国王様ーっ!

「竜騎士メグミ様ーっ!」


「メグミ殿、お主も民に手を振らぬか」


 国王様が話かけてくるが、私は答えることもできない。

 

「もう、メグミは内気だな~」


 ピーちゃんが袋から顔を出すと、ちょこちょこ歩いて私の肩に乗った。


「「「おおおーっ!」」」


 街の人からの歓声が凄いことになっている。

 動かない私の代わりをしようと思ったのか、ピーちゃんが片方の翼をひらひら振る。


「「「おおおーっ!」」」


 王様が私の耳元で何かいっているが、それが聞こえないほど人々の歓声は大きかった。

 私たちが乗った山車が、ギルドの前へ差しかかる。


 三階建てのギルドは、その窓を全て開けており、そこから冒険者たちが顔を出し、竜の絵がついた旗を振っている。

 驚いたことに、その中には、ベラコスのギルマスであるサウタージさん、スティーロのギルマスであるヒューさん、そして両ギルドの冒険者たちの姿があった。


 それまでうつむいていた私だが、知りあいの顔を見てほっとしたから、少し気持ちが落ちついた。

 ギルドの方へ手を振る。


「「「メグミー!」」」

「「「ピーちゃん!」」」


 冒険者たちの声が私まで届く。

 私は思わず笑顔になった。

 横を見ると、ピーちゃんも笑っている。


 私はピーちゃんがこちらに近づけた顔に頬ずりした。


 ◇


 数日前、お城で陛下に面会した私は、ヘルポリで起きていることを伝えた。

 その場で私に切りかかってきた副宰相は、ピーちゃんの体当たりで気を失った。

 

 ピーちゃんを目にした貴族たちは大騒ぎになったが、陛下は冷静で、大きな声で次のように宣言した。


「この者を、竜騎士に任ずる」


 それからお城は別の意味で大騒ぎになり、今日のこのパレードとなったわけだ。


「メグミ殿、余はこの国を民が幸せに暮らせる平和なものにしたい。 

 何かの時には、力を貸してほしい」


 陛下の声がやっと聞こえるようになった私は、それにこう答えた。


「よその国を攻めたりしないのなら、私は協力したいと思います」


「ははは、メグミ殿は王というものがよく分かっておるようじゃな。

 権力を持てば、多くのものがそれに囚われ、それを振るおうとする。

 じゃが、それはより大きな権力を持とうという欲望のためじゃ。

 安心せい。

 余にもそのような欲望が湧くことがあるが、それに囚われたら苦しむのは民じゃ。

 メグミ殿、余がもしそうなった時は、お主の手で始末してほしい」


 陛下の目は知的でキラキラ輝いている。

 この王様ならきっと大丈夫ね。

 そういえば、この国は魔力がなくても差別を受けないってダレーヤさんが言ってたわ。

 立派な王様なのね。


 陛下と私は、王城に戻るまで人々に手を振りつづけた。


 ◇


 パレードの後、私は二日もギルドに引きとめられた。


「メグミ、あんたは私が見込んだだけはあるよ」


 サウタージさんが、私をハグしてくれる。


「ピーちゃんも、よくメグミを守ってくれたね」


 竜の里であったことを聞いたエマさんが、ピーちゃんをハグしている。彼女のハグが大好きなピーちゃんが、とろけそうな顔をしている。


「お姉ちゃん、いつ帰ってくるの?」


 ニコラが、私の手を引っぱる。


「もうすぐ帰れると思うよ」


 ニコラの頭をそっと撫でてやる。


「しかし、『竜騎士』とはなあ……」


 ヒューさんが感心したように言う。


「陛下も思いきったことをするもんだぜ」


 ティーヤムギルドのギルマス、グラントさんが感心したように言う。


「メグミ、あんたがドラゴンを連れてるって国中どころか、他国にまで知れわたるだろう。

 油断するんじゃないよ」


 サウタージさんが、用心するようにアドバイスしてくれる。

 ドラゴンの素材はものすごく価値があるらしいからね。


「お姉ちゃん、ピーちゃん、ドラゴニアの話、もっとして」


「うんいいよ」


「ニコラ、さすがにピーちゃんはお話できないだろう」


「ああ、そうだった」


「「「あはははは」」」


 大人たちの笑い声が重なる。

 ピーちゃんが念話できるのは、私とニコラだけの秘密だからね。

  

「おい、今日は久しぶりに腕を振るうぜ!」


 ヒゲもじゃのギルドシェフが、ダンテさんに話しかける。


「師匠、お手柔らかに頼みますよ」


「ダンテ、おめえ、新婚にかまけて腕が落ちてねえだろうな?」


「お、言いますね!

 俺の『竜の恵み亭』は、連日満員ですよ。

 勝負しますか?」


「言ったな!

 返り討ちにしてやる」


 この日は、ダンテさんとその師匠が腕を競ったため、山のような料理を食べさせられることになった。

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