第36話 神樹と少女11

 シューと私が乗った馬車は、お城の中をどんどん進んでいく。


「あっ、私、お城に上がれるようにギルドからお願いするつもりだったのに……」


「あはは、メグミ、それはもう心配する必要ないよ」


「そ、それもそうね。

 もう、お城に入っちゃってるし」


 馬車は、小さな門を潜ると、庭園の中を走り、立派な建物の前で停まった。

 シューはローブを脱ぐと客車を降り、私の手を取ってくれた。


 執事らしき人が近寄ってきて、シューのローブや荷物を受けとる。


「さ、メグミ、こっちだよ」


 シューは、建物にずかずか入っていく。

 お城で、こんなふるまいをしていいのだろうか?

 ちょっとそう思ったけど、私は彼の後ろをついていった。


 シューが、凝ったデザインのドアを開ける。


「メグミ、しばらくここで待っていてくれる?」


「うん、いいよ」


 シューがいなくなると、すぐにメイドさんが入ってきて、お茶の用意をしてくれる。

 何か違和感があったが、お茶を飲みおわったとき、それに気づいた。

 メイドさんが、メイド衣装を着ているのだ。


 いくら異世界とはいえ、メイドの服がこれほど元の世界と似ているはずがない。

 いったい、どういうことだろう?

 私がそう思ったタイミングで、ドアがノックされる。


「どうぞ」


 シューかと思ったら、入ってきたのは、ドレスを着た小柄な女性だった。

 すごく整った小顔の女性は、おそらく私より少し上、十七か八くらいだろうか。

 ぱっちりした目の彼女はまるでお人形のようだった。


「あなたがメグミね。

 私はセリカ、よろしく」


「は、はい、よろしくです」


 彼女は、私の顔をジロジロ見ている。


「うーん、シュテインが言うとおり、あいつと同じ雰囲気があるわね」


「あの、あいつって?」


「ああ、彼と私の友人でね、黒髪なの」


 私はドキッとした。

 この世界に来てからまだ黒髪の人は目にしていない。

 もしかすると、その人も召喚されてこの世界へ来たのかもしれないわ。


「あのー、シュテインって言うのは?」


「ああ、あなたをここへ連れてきた人」


 シューの本名は、シュテインだったのね。


「でね、この国の皇太子様」


「えっ!?」


 ◇


 シューが、王子様プリンスだという事が分かり、私はしばらく呆然としていた。

 思いかえすと、ずい分馴れ馴れしい言葉遣いをしていたと気づく。

 カジノや町でみんなが平伏していたのは、馬車にではなく、シューに対してだったのね。


 やっちゃった感から、私はうつむいてしまった。私の顔は、きっとまっ赤になってたと思う。 


「お城には、何をしに?」


 セリカさんが尋ねる。


「王様に、伝えたいことがあるんです」


「そうなの?

 でも、普通は会えないわよ。

 お城からの招待状は持ってる?」


「いえ、ありません」


「うーん、それじゃあ、シュテインの口利きがあっても無理じゃないかな」


「でも、すごく大切なことなんです。

 私、どうしても王様に会わなくちゃいけないんです」


「困ったわねえ」


 セリカさんが美しい眉をひそめたとき、シュー、いえ、シュテインが戻ってきた。


「メグミ、陛下からの許可が出たよ」


「えっ!

 シュテイン、どうやったの?」


 セリカさんが、すごく驚いている。


「メグミはね、金ランクの冒険者なんだ」


「ええっ!?」


 セリカさんは、すごく驚くと、肩をすくめるような姿勢になった。


「シュー、あ、シュテインさん、どうやって許可をもらったんですか?」

  

 セリカさんの話だと、許可は出そうにないってことだったからね。


「どこの国でも、金ランクの冒険者は王様と謁見する権利があるんだよ。

 知らなかった?」


「そうだったんですね」


 私はベラコスのギルドマスター、サウタージさんに心の中で手を合わせた。 

 彼女が私を金ランクにしてくれたおかげで、王様に会えるのだから。


「じゃ、用意はいいかい?」


 こうして、私は王様と会えることになった。

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