第32話 神樹と少女7 

 その日の内に、私はティーヤムの城下町へ飛んだ。

 飛んだというのは文字通り、ピーちゃんに連れてきてもらったのだ。


 城下町は高い壁に囲まれており、その周囲に草原、そのまた周囲に森が広がっていた。

 空から人気のない草原に降りた私は、ピーちゃんを革袋に入れ、街へ向かった。


 街を囲む壁の外には、木で作った粗末な小屋が立ちならんでいる。

 私が集落の中を歩くと、子供たちが驚いたような顔でこちらを見ていた。 

 それがこの辺りの衣装なのか、大人も子供も、みな生成りのワンピースを着ていた。

 この集落は、貧しい人たちが住んでいるようね。


「ねえ、ボク、お城に行く道が分かるかな?」


 なぜか私の後をついてくる男の子に尋ねてみる。


「ねえちゃん、お城に行くのか?」


「ええ、そうよ。

 あと、カジノの場所も分かる?」


「カジノは分からないけど、お城には南の門からまっすぐ入ったら行けるみたいだよ」


「ありがとう」


「お菓子でできたみたいなお家が見えてきたら、お城の近くだから」


「助かるわ」


 マジックバッグからナッツを生地でくるんだお菓子を出し、それを男の子に渡した。


「えっ?

 これくれるの?」


「ええ、どうぞ」


「やった!

 ワンワン団のみんなにも分けてやろう!」


「他の子にあげるなら、もう少し渡しとくね」


 男の子が抱えられるだけのお菓子を持たせてやった。


「お姉ちゃん、ありがとう!」


「どういたしまして」


「お礼に途中まで案内するね」


 こうして、小柄な男の子に案内され、私とピーちゃんは街の中に入った。


 ◇


「リーシャばあちゃん、お姉ちゃんにもらった」


 街に入ると、男の子は割と大きな木造の家まで私を連れてきた。


「あらまあ、ありがとうございます。

 こんなに沢山いただいて」


 子供たちが手にしたお菓子を見て、おばあちゃんが、しわしわの顔をほころばせる。


「あの、私この町は初めてで、行きたいところの場所が分からないんです」


「おやおや、嬢ちゃんはどこに行きたいんだい?」


「カジノとお城です。

 ああ、それと、ギルドにも」


「そりゃまた、変な組みあわせだね。

 ああ、そうだ、ちょうどいい人が慰問に来てるから案内してもらうといいよ」


「えっ? 

 いいんですか?

 では、お言葉に甘えます」


 おばあさんは男の子と建物の中に入っていったが、すぐに白いローブ姿の人を連れて出てきた。  


「ここは、孤児院でね。

 この方は、時々慰問に来てくださるのさ。

 あんたがお城に行くなら、力になってくれるよ」


 ローブの人は、フードを目深にかぶっているから、男性か女性かもよく分からないが、おばあちゃんの言葉に頷いているようだった。


「カジノ、ギルド、それからお城に行きたいそうだよ」


「分かりました。

 では、まずカジノから行きますか」


 声からすると若い男の人みたいだが、フードの陰から見えるあごの線が細いから、もしかすると女の人かもしれない。


「ありがとう。

 よろしくお願いします」


 ◇


 ローブの人は、街の事がよく分かっているようで、裏道を通ったり、公園を突っきったりして、私をカジノまで連れてきてくれた。

 カジノは、石造りの大きな建物だった。


「メグミさん、カジノには何の用?」


「そうですね。

 ここを潰せたらいいかなって」


「はははは、面白いことを言うね。

 じゃ、今からここで遊ぶんだね?」


「ええ、賭け事をしようと思います。

 私の年齢でも大丈夫でしょうか?」


「この国の成人は、十五才だから、君なら大丈夫だよ」


「よかった」


「ボクは一度お城、いや、ウチに帰ってくるから、君は好きなだけ遊んでいるといいよ」


「ありがとう」


「お金は大丈夫?」


「ええ、大丈夫です」

 

「じゃ、後で迎えに来るから」


 今の会話で男の人だと分かったローブ姿の人は、あっという間に姿を消してしまった。


「なんか、魔法みたいね」


「魔法じゃなくて、あれは魔術だね」


「えっ!?

 ピーちゃん、分かるの?」


「分かるよ。

 周囲の人に気づかれにくくする魔術だと思うよ」


「へえ、そうなんだ」


 私はカジノの大きな建物を見上げてから、ゆっくり歩いて中に入った。

 

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