第28話 神樹と少女3

 食事が終わり、テントに入った私は、マジックバックに入れておいた、水が張られたタライを取りだすと水浴びを済ませ、敷布に横になった。


 袋から出たピーちゃんが私の横で丸くなる。彼は、すぐにピーピーと可愛い寝息を立てはじめた。

 それほどたたないうちに、私も眠りに落ちた。

 だから、テントが大勢の人に囲まれても、全く気づかなかった。


「おい、起きねえか!」


 誰かが、私の肩を揺らすので、目を覚ます。


「か、頭!

 こりゃ、上玉ですぜ。

 しかも、黒髪ときたもんだ。

 高く売れやすね!」

「ああ、そうだな。

 だけど、なんでこの小娘、石なんか抱いて寝てるんだ?」


 誰だか分からないけど、いい人たちではなさそうだ。

 それに、ピーちゃんを石と間違えるなんて、失礼にもほどがある。

 私は、ここのところ使っていなかったテレパシーを使った。


『ピーちゃん、起きてる?』


『なんか、うるさいな。

 なに、この人たち』

 

『どうも、悪い人たちみたいだから、やっつけていいよ』

 

『えっ?

 燃やしてもいいの?』

 

『それはダメ。

 動けない程度にやっつけて』

 

『えーっ!

 殺すより、そっちの方が難しいのにー』

 

『とにかく、お願いよ』


『ちぇっ、まったくメグミは竜づかいが荒いよ!』


 ◇


 盗賊の頭は、少女が抱いている石が動いたような気がしたが、最初、それを魔術灯の光が揺れたせいだと考えた。

 しかし、確かに石が動いている。

 

「どっ」


 どういうことだと言おうとした頭は、意識を失った。

 その石が、彼の顔めがけ、すごい勢いでぶつかったからだ。


「がっ」

「ぎっ」

「ぐっ」

「げっ」

「ごっ」


 盗賊が一人、また一人、地面に倒れていく。

 最後の一人が倒れるまで、それほど時間は掛からなかった。


 ◇


 私は、倒れている男たちの手足をヒモできつく縛っておいた。

 武器は全部取りあげ、マジックバッグに入れた。


 少し離れたところに、なぜかライとレフが倒れており、顔とハゲ頭がたくさんのたんこぶで膨らんでいた。


 ピーちゃんに頼んで、二人を大きい方のテントまで運んでもらう。


「こ、ここは?」


 目覚めたライが、言葉をもらす。彼の両目は腫れあがっていて開いているか閉じているか区別がつかなかった。


「テントの中よ」


「あ、メ、メグミさん!」


 私に気づいたライは、起こしていた首を、なぜかがっくり落とした。


「う、ううう」


「レフ、あなたも大丈夫?」


「な、なぜ、メグミさんが?」


「倒れていたあなたたちをテントに連れてきたの。

 どうして二人は、あんなところで倒れていたの?」


「……きっと、罰が当たったんだと思います」


 そう言うと、レフもがっくり首を落とした。

 二人は、腫れあがった目から涙を流し、おし黙っている。


 次に何をするか、ピーちゃんと相談することにした。


「ピーちゃん、おいで」


 盗賊が他にいないか周囲を見まわっていたピーちゃんが、私の胸にすとんと収まる。


「ピーちゃん、この人たち、どうしようか?」


「メグミは、神樹様の仕事に人手がいるかもしれないと考えてるんでしょ?」


「うん、そうだよ」


「じゃ、みんなに働いてもらえばいいよ」


「うーん、でも、この人たち、言うことを聞いてくれるかしら」


「メグミ、ボクがどうやって君を見つけたか分かる?」


「そう、それが不思議だったのよ。

 どうやったの?」


 ピーちゃんは、もごもごと何か呪文のようなものを唱えた。

 私の左手に魔法陣が現われる。


「なに、これ?」


「メグミの居場所が分かるように、魔法で印を付けておいたの」


「へえ、だから私がどこにいるか、分かったのね。

 そういえば、結界はどうしたの?」


「秘密のトンネルから結界の外に出たんだ」


「えっ!?

 それは封鎖されたって言ってなかった?」


「あれは嘘だよ」


「なーんだ」


「怒らないの?」


「だって、ピーちゃんは私のためを思って嘘をついたんでしょ?」


「……どうだったかなあ」


「まあ、いいわ。

 とにかく、この倒れてるおじさんたちに、ピーちゃんの印を付けるのね?」


「そうそう、そうすれば、どこにいるか分かるからね」


「ライとレイにも付けておいた方がいいかしら」


「この二人は頼りないから、別の意味で付けておいた方がいいね」


「うん、分かった。

 じゃ、ピーちゃん、お願い。

 だけど、こんなに沢山の人に印を付けても大丈夫?」


「この形の魔法は、ほとんど魔力を使わないから、こんな人数ならへっちゃらだよ」


「じゃ、お願いね、ピーちゃん」


 こうして私は、おじさんたちに、神樹様の仕事を手伝ってもらうことにした。

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