第10話 ダンジョンと少女5
頬に湿ったものが触れている感覚で、目が覚める。
最初に見えたのは、心配そうなピーちゃんの顔だった。ドラゴンでも心配顔ってあるんだね。
『メグミ!
生きてたっ』
ここがどこか分からず、私は少しの間ぼーっとしていた。
「きゃっ、デミリッチ!」
気を失う前、デミリッチに捕まったことを思いだし、叫んでしまう。
しかし、上半身を起こした私が目にしたのは、蓋が少し開いた巨大な石棺だけだった。
「あれっ?
デミリッチはどうしたの?」
『それが、よく分からないんだ』
「どういうこと?」
『あいつがメグミを食べようとしたんだけど、なぜか急に苦しみだすと消えちゃったんだ』
「どういうことかしら?」
『とにかく、デミリッチは倒したみたいだよ』
「どうしてそんなこと分かるの?」
『ほら、こっち見てごらん』
ピーちゃんが飛んでいった方を見ると、部屋に入ってきた時には無かった出口が開いている。
立ちあがり体の埃を払った私は、彼の後を追い、その出口を潜った。
◇
「す、凄い!」
そこには広い部屋があり、剥きだしになった岩肌の床に宝石や金貨が山を成していた。こういった場面は、アニメや映画で見ていたけれど、実際に自分が目にしてみると、信じられないほど凄い迫力だ。
問題は、どう見てもお宝のほとんどが持ちかえれないことだ。
『あれは、きっと地上に通じる魔法陣だね』
ピーちゃんが言うように、お宝の向こう側に魔法陣があるから、あの上に立てば、もしかすると地上に帰れるかもしれない。だけど、山のようなお宝は、その一部しか持てないだろう。
宝をかき分け、持ちかえるものを選ぶ。それがカバンに入りきらなくなったとき、ふと、あるものが目に留まった。
それは少し大きめの赤いハンドバッグで、二組の取っ手がある。蓋にはボタンのかわりに四角くカットされた緑色の宝石が付いていた。
一目で気に入った私は、それを手に取り、より分けておいた大粒の宝石類をその中へ入れる。
不思議なことに、宝石を全部入れても、ハンドバッグは一杯にならなかった。
「あれ?
なんか変ね」
宝の山に残った宝石類も、入れてみた。
いくら入れても、ハンドバッグは一杯にならない。
「ピーちゃん、これ、どうなってるの?」
自身も宝を物色していたピーちゃんが、こちらに飛んでくる。
私は明らかにハンドバッグに入りそうにない剣の先をつっこんで見せた。剣はなんなくその中に納まった。
『ああ、マジックバッグだね』
「マジックバッグ?」
『見た目より多くのものが入る、魔法の道具だよ』
「へえ、便利ね」
『でも、そのバッグはその中でも特別なもののようだね』
「どうして?」
『マジックバッグは、見た目より多くのものが入るけど、やっぱり限界があるんだ。
でも、それには、限界がありそうにないからね」
「でも、もう少しで一杯になるかもしれないわね」
『どんどん入れてみれば、分かるね』
「じゃ、そうしよう」
私とピーちゃんは、赤いハンドバッグに、どんどん宝物を入れていった。宝物の中には、ハンドバッグの口より大きなものもあったけれど、そういうものは、ハンドバッグの方を近づけると、シュッと吸いこまれるように消えた。恐らく、バッグの中に入ったのだろう。
結局、部屋にあった宝物は、その全てがハンドバッグに収まった。
不思議な事に、物を入れてもバッグの重さは変わらなかった。
『やっぱりね!』
ピーちゃんが、嬉しそうにパタパタ飛んでいる。
両手を伸ばすと、彼は私の胸に抱かれ丸くなった。
『じゃ、メグミ、魔法陣を踏んでね』
ピーちゃんに言われるまま、魔法陣の上に立つ。
周囲が光に包まれる。
光が消えると、そこは見おぼえある部屋だった。
ダンジョン一階にある、私が最下層へ飛ばされた部屋だ。
ハンドバッグを腕に掛けた私は、ピーちゃんを抱いたまま、地上へと続く洞窟へ入っていった。
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