第9話 ダンジョンと少女4 


 デミリッチがいるというボス部屋は、魔法陣がある部屋からすぐだった。


 そこだけ洞窟の天井が高くなっていて、とても大きな扉が立っていた。

 扉の上までは十メートル以上ありそうだ。


 小さなドラゴンのピーちゃんが飛びあがり、扉の数か所にちょんちょんと触れた。

 私一人では、とてもそこまで手が届かなかっただろう。


 ゴゴゴゴゴ


 少年漫画の効果音になりそうな音を立て、扉が開いた。

 私とピーちゃんが部屋の中に入ると、再び音を立て扉が閉まる。

 部屋の中は、外より肌寒い。


『あそこ、分かる?

 部屋の中央に大きな棺桶があるでしょ』 

 

『大きいわね』


『もうすぐ、あそこからデミリッチが出てくるよ』


 ピーちゃんがそう言い終わらないうちに、巨大な石棺の蓋がズルリとずれた。

 できた隙間から、まっ黒な雲のようなものが吹きだしたかと思うと、巨大な人型の何かになった。「なにか」というのは、もやもやした黒雲は、形が定まっていないからだ。

 ただ、全体を見ると、紛れもなく大きな人型をしていた。


 クゥオオオオッ


 口らしいところが開くと、そんな音が聞こえた。

 気が弱い人なら、それだけで気絶しちゃいそうだ。

 ピーちゃんがヒューっと飛んでいくと、小さな口から凄い炎を吐いた。

 火炎放射器のそれを何本も束ねたような炎が、デミリッチの体に襲いかかる。


 クゥオオオオゥッ


 デミリッチが、再び叫び声をあげた。


 ピーちゃんの炎が止まると、少しだけ小さくなっていたデミリッチが元の大きさに戻る。

 その巨大な手が、ピーちゃんへ向く。


 デミリッチの黒い手が、ビューっと伸びる。

 ピーちゃんは、ぎりぎりでそれをかわした。

 ピーちゃんのお腹にあった刺し傷は、きっとあれが原因ね。


 短剣と盾を『赤い棘』のリーダーに盗られた私は、ギルマスに作ってもらったナイフを手にした。

 ダークウルフの牙で作られたそれは、日頃、調理に使っているものだ。

 後ろからデミリッチに近づくと、足だと思われるあたりのモヤモヤに、ナイフを突きさした。

 きっと手ごたえなんてないだろうと思っていたのに、なぜかナイフの刃は、グサッという感じで何かに刺さった。


 クゥオオオオッ


 デミリッチが一際高い叫びをあげると、大きな手を広げ、私の体に巻きつけた。

 巨大な黒いモンスターに握られた形になった私は、息ができないほどの握力に、ジタバタするしかなかった。


 動く方、つまりダークウルフのナイフを持った方の手で、胸の所を押さえつけているデミリッチの手を突きさす。

 だけど、ナイフはなぜかデミリッチの黒い手をすり抜け、私自身の胸に突きささった。

 ひどい痛みが私を襲う。


「ああっ!」

 

『メグミーっ!』 

 

 薄れかける意識の中で、ピーちゃんの声が聞こえてきた。

 私の体は、デミリッチが大きく開いた、そのくち近くまで持ちあげられる。

 意識を失いかけた私の目に映ったのは、闇が渦巻く、デミリッチの内側だった。


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