第6話 ダンジョンと少女1

 ルエラン君の家を訪れた次の日、洗濯のお手伝いが終わった私は、サウタージさんに言われ、ギルドの受付に来ていた。

 そこは、テーブルが置いてあるスペースの反対側で、壁に二つ窓口があり、大きなカウンター越しに受付の人と話せるようになっている。

 まだ自分で使ったことはないけれど、冒険者のおじさんたちが使うのをよく見ていたから、何をすればいいか分かっていた。


「あのー、メグミです」


 受付は、感じがいい若い女性だった。地味な長袖を着ており、右目の下に泣きボクロがあった。


「ああ、メグミちゃん、来たのね。

 ギルマスから聞いてるわ。

 どうぞ、これを持っていって。

 分からないことがあれば、冒険者のおじさんたちか受付に尋ねるといいよ」


「ありがとう」


 渡された布の袋を手に、自分の部屋に帰った。

 机の上に中身を出してみると、革表紙の本が一冊と小さな金属のプレートだった。

 プレートは、私が見慣れたものだった。それというのも、おじさんたちが身体のどこかにつけていたからだ。上着の胸につけている人が多かったが、中にはヒモを通し首からぶらさげている人もいた。

 確か、色によって冒険者のランクを表していたはずだ。


 金属プレートだけ持ち、テーブルや受付がある部屋まで戻った。

 受付がちょうどお昼休みで閉まっていたから、テーブルに着いていた冒険者のおじさんに話しかける。


「あの、今日、これもらったんですけど……」


「「「おおっ!」」」


 私が言いおわらないうちに、おじさんたちの歓声があがった。


「おい、みんな、メグミ嬢ちゃんが、いきなり銀ランクになったぜ!」


「「「おおー!」」」


 部屋にいたおじさん、若者がたくさん集まってきてお祝いを言ってくれた。


「おい、今日の夕方は空けとけよ。

 メグミ嬢ちゃんの銀ランク昇進祝いだ!」


「「「おおーっ!」」」


 おじさんたちの言葉に気恥ずかしい思いをしていた私は、部屋の隅にあるテーブルに座っている女の人が、憎々し気な目でこちらを見ているのに気づかなかった。


 ◇


 ギルドで私の銀ランク昇進祝いがあった翌日。

 テーブルの周りをほうきで掃いていると、二十歳くらいの少し派手な感じの女性が声を掛けてきた。


「メグミ、銀ランクになったんだってな?」


「はい、昨日なりました」


「おめでとう」


 女性は、なぜか暗い感じで、そう言った。


「ありがとう」


「せっかく銀ランクになったんだから、ダンジョンに行ってみない?」


「あの、お名前は?」


「ああ、あたしゃ、グロスってんだ。

 パーティ『赤い棘』っていうとこのリーダーさ」


「ああ、聞いたことがあります」


『赤い棘』という名前は、おじさんたちの話に時々出ていたから憶えていた。

 そのパーティは、おじさんたちから、あまりいい印象を持たれていなかったはずだ。 

 

「で、どうなんだい?

 ダンジョンに行くのか、行かないのか?」


「皆さんのランクは何でしょう?」


「ウチかい?

 あたいたち『赤い棘』は、みな銀ランク以上だよ」


 おじさんたちから聞いた話とは違うけれど、本人が言っているから、きっとそうなのだろう。

 

「ギルマスから、もし依頼を受けるなら、銀ランクの人が三人以上いるパーティでと注意されています」


「まあ、鉄、銅を飛ばして、いきなり銀ランクだからね。

 あんたが無茶しないか、ギルマスも心配なんだろう」


「それから……」


 それから、依頼を受ける時には、かならずギルマスに報告するようにって言われているけど、これは言わなくていいかな。


「なんだい?」


「いえ、なんでもありません」


「じゃ、あさって夜明けに、西門のところで集合だよ。

 遅れるんじゃないよ」


「え、ええ」


 こうして私は、初めてダンジョンへ行くことになった。 

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