メグミとピーちゃんのファンタジー旅行

第５話 薬と少女

　ベラコス近くの森で『黄金タケ』が見つかったという話は、またたくまに世間へ広まった。黄金タケを探す大勢の人がベラコスを訪れ、街の宿屋は満員となった。

　冒険者のおじさんたちから、何かあるたびに握手を求められるようになった。

　幸運な私にあやかろうとしているのだと、サウタージさんが教えてくれた。

　黄金タケがあれほど高価なのは、『エリクサー』という万能薬の材料になるからだそうだ。

　その薬を作る他の材料は、高価なものはあっても入手できないことはないのだが、黄金タケだけは、その希少性から手に入らないそうだ。

　◇

　今日、私は町はずれのルエラン君の家に来ている。

　彼がどうしても来てくれと頼むので、断れなかったのだ。

　サウタージさんも一緒に来ると言ったので、ルエラン君と三人でここまで来た。

　彼の家は、『森の魔女』ダレーヤさんの家よりまだ小さく、廃屋といってもよいほどボロボロだった。

　屋根には、雨漏りしそうな場所が何か所もある。

　家の中に入って天井を見ると、やっぱり空が見える穴がたくさんあった。

　家と同じようなボロボロのテーブルに着く。椅子は足が壊れているのか、座るとぐらぐらした。　

　奥のドアが開き、茶色いワンピースを着た、針金のように痩せた初老の女性がよろよろと入ってきた。ルエラン君が身体を支えないと、すぐにも倒れそうだ。

「サウタージさん、メグミさん、この度はウチの息子が本当にお世話になりました」

　弱々しくそう言ったお母さんは、すぐに激しく咳こみ、ルエラン君に背中を撫でられている。

「母は『石肺病（せきはいびょう）』なんです」

　サウタージさんは、それで全て分かったようだった。

「そうだったのね。

　だから、メグミが黄金タケを分けてくれることになって、あんなに泣いてたのね」

「そうです。

　たとえお金を積んでも、石肺病の病人にエリクサーを分けてくれる人など誰もいません。

　それなのに石肺病には、エリクサーしか効かないんです」

「エリクサーは蘇生薬として使われるのが普通だからね。

　すぐに命を奪わない石肺病に使おうなんて人はいないわ」

「そうです。

　でも、石肺病は、ゆっくりと命を奪う病気です。　　　　

　その間の苦しみはひどいものです」

　ルエランは、慎重な手つきで懐から筒を取りだした。

　蓋をポンと開けると、椅子に座らせた母親のあごを少し上に向け、彼女の口にそっと筒を触れさせた。

「さあ、母さん、飲んでごらん」

　ルエラン君のお母さんは、弱々しく口を開け、青い水薬（ポーション）を少しだけ飲んだ。

「どう？」

　お母さんの顔色が、みるみる良くなっていく。それはまさに奇跡の薬だった。

「ど、どういうことだい、これは！？

　ちっとも苦しかないよ！」

「よかった！」

　ルエラン君が涙を流し、お母さんに抱きつく。

　サウタージさんの目にも涙があった。

「メグミちゃん、ありがとう！

　母さんを治せた！

　ボクにはもう残りの黄金タケは必要ないから、お返しします」

「ルエラン君、それはもう君のものよ。

　好きに使えばいいの。

　とりあえず屋根の修理なんてどうかしら」

　穴だらけの天井を指さした私がそう言うと、サウタージさんが笑った。

「あははは、そりゃそうだ。

　ルエラン、お前の負けだな。

　次はお前が誰かを助けるといいさ」

「あ、あり、ありがとう……」

　ルエラン君が言葉を続けられないくらい泣きだしたので、私とサウタージさんは、彼の家を後にした。