生死
新暦218年 グスタフ王国 城下町 広場
――俺の名前は無い。形式状の名称は『Gs-H995 TYPE-XXX』であるが人らしい名前は持ち合わせてはいない。
――戦争に人は必要なくなった。だが、機械にはまだ『人』が、『操縦者』が必要らしい。だから、俺らみたいな『人造人間』が造られた。
戦う事しかできない使い捨ての駒だ。
だが、それでも個人の人格というモノは与えられている。どれだけ決定づけられた運命だろうとも、考える事すら放棄した『人形』であろうとも、俺たちには『性格』や『本能』だってある。
そういった、俺をまだ人間たらしめているモノたちがあの姿を変えた化け物を見て囁いてくる。
――あいつは、ヤバい。
「相棒!あの『メイド』変形したぜ!例のギャラクセル……噂のイカれメイド野郎だ!!」
「1億……あいつまさか契約を……?」
異形。変形したメイドの姿はまさにそう形容するとしか言いようがなかった。
基本的なベースは人型である。しかし、やはり奴を異形たらしてめているのはなんといってもあの長さも形もバラバラな腕の6本だ。明らかに別々のマシンから取られたと思わしき腕の数々。標準的な人型兵器らしき腕もあれば多関節の鞭のようになっている腕もある。かと思えば、関節のない腕もあり、そして、それら全てがまるで重力など御構い無しに宙に浮遊している。
――刹那。
異形は一瞬の間にこちらの懐に入る。
「……そういえば、名前をまだ名乗っていませんでしたね」
もはやメイドの面影すら存在しない異形の怪物は己の秘部たる操縦席に座らせた者、もしくは俺らに向かって改めて言い放つ。こちらの首筋に刃を当てながら。
「セイル・イグニズフリード……全てのギャラクセルを殺す女の名です」
「以後、お見知り置きを」
新暦218年 グスタフ王国城下町 空き家
「はぁ……はぁ……」
ギシギシとこちらが動くのと同調するかのようにベッドが軋む。もし、彼らの仲間が近くに居たならば十中八九見つかるだろう音を立てて。
しかし、そんな事など御構い無しといった風に彼女は乱れる。死にまみれた世界の中で生を貪り狂う。
――人を殺した。明らかに意思があった巨人型ごと。
――その血濡れた手のまま、俺たちはお互いを抱いている。
血と汗の匂いが入り混じりむせ返りそうになる。
でも。なんだか。
「……生きてるって気がする」
「私好みの顔になってきましたね」
お互いの唾液が混じり、溶け合い、まるで1つのモノへと変わっていく。
お互いに欠けていたモノを埋めるように、求め、奪い、食う。
まるで動物、いや獣。理性など存在しないかの様に本能のままに貪る。
――たった一瞬の戦いだった。
こちらが相手の間合いに入り首に刃を当て、どことなく勝利を確信した。その瞬間、奴の銃口はこちらを向いていた。
体から汗が止まらなくなり、呼吸が困難になり、死というものを実感した。
――俺が今まで他人に強いてきた罪の重さだ。
そこから先は無我夢中だった。
生きたい、生きたいと必死になった。
――そして、俺は生きている。
その後、戦闘の熱に当てられ、空き家に入った俺は彼女を押し倒し、今に至る。
セイルはギャラクセルだ。機械である彼女が本当の部分で生と死を実感しているのかは不明だ。今、生を貪り狂う彼女はプログラムされたモノかもしれない。
でも、それでも。
こうした感情を共有出来るのは心の底から嬉しかった。
「あぁアルスさま、アルスさま。私の目に狂いは無かった」
「セイル……俺はもう……」
「えぇ来てください……私の
俺は戦う。国の、国民のために。俺はセイルと共に……。
「今は安らかに眠ってください。明日はきっともっと――愉しくなりますからね」
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