5
……そして、しばらくして。
目を覚ました黄瀬は実に羨ましいことに山吹に膝枕をされていた。
「!?」
「黄瀬……待って」
すぐさま起き上がり逃げようとする黄瀬を山吹が呼び止める。
「さっきは…………ごめん。逃げる黄瀬を追いかけるのも楽しい、けど……今日は菓子、食べて欲しかった……」
「か、菓子?」
きょとんとする黄瀬に、山吹が言葉を続ける。
「菓子、作った……友達に、食べて欲しい」
「山吹さんはお友達に手作りお菓子をあげるのが好きなんだよ。同時に彼女のお菓子は友好の証って訳」
足りない言葉を若草が補った。
「その友好の証を断るんですか、黄瀬さん?」
「うっ……」
そこで緑川が黄瀬の良心をチクチクと突き、
「食べてあげてよ。そしたら二人はお友達になれるんだからさ」
「とも、だち……」
「そうだぞ黄瀬、お前の欲しがってる友達だ!」
桜庭と赤井もたたみかけるように訴える。
黄瀬は俯いてしばらく考えこむと、口を開いた。
「お……」
「?」
「俺は、女とか慣れてねーから、その……すぐに他の連中みたいな友達にはなれねーかもしれねーけど……」
この場にいる全員が黄瀬の言動に注目している。
そしてそれを本人も感じているのだろう。みるみる顔が赤くなっていく。
「……っ、あ、甘い物は………………好きだ」
「!」
無表情な山吹が驚き、そして嬉しそうな顔をした……気がした。
それよりも喜びをあらわにしたのが桃井。
「良かったね、山吹さん!」
「……ありが、とう」
自分の事のように嬉しそうな桃井に山吹は頷いて応える。
「良かった良かったぁ♪」
「一時はどうなる事かと思ったな」
「世話が焼けますね」
まったくだ。黄瀬も山吹も極端なんだよ。
「じゃあ……食べて、くれる?」
「お、おう」
これで今回の騒ぎもめでたしめでたし、か。
山吹はごそごそと包みを開け、お菓子を取り出し……
「黄瀬……あーん」
「……っ!?」
なんて、ベタな事をやってきた。
あー、黄瀬が一気に真っ赤に。
「そっ……それは無理だっ!!」
「なんで?……食べてくれるって……」
「ふふふ普通に食うっつーの!!」
どうやら無自覚らしい山吹が小首を傾げる。
そしてまたじりじりと攻防が始まるのだった。
「ありゃ、またふりだしに戻っちゃった」
「黄瀬さんにしては頑張ったんですけどね~」
やれやれ、と溜息をつくダブルグリーン。
「クックック……俺は知っているぞぉぉぉ! これは『リア充爆発しろ』というヤツだなぁそうだろう藍原ぁ!!」
「なんでやねん!」
やっぱりどこかずれている朱堂と、ツッコミを入れてどうだとばかりに得意気な顔を俺に向ける藍原。
いや、そこでこっち見られても困るんだけど。
「もう俺帰っていいかな?……さっさと掃除終わらせて」
「そこで黙って放置して帰らないのが青野さんですよねぇ」
「当たり前だろ」
それにこんな連中放置して一人だけ帰るとかそんな恐ろしい真似、俺には出来ない。
「何はともあれミッションコンプリートだ!」
「そうだな赤井ィ!」
二人のレッドは顔を見合わせるとビシッとポーズを決める。
「ジャスティスファイィィィブ!」
「ブレイブゥゥゥ……V!」
「「とうっ!!」」
で、意味もなくその場でジャンプ。
仲のよろしいことで何よりだな。
「……終わったら掃除再開すっからなー?」
ここらで俺は、めでたしめでたしと強引にしめておくことにした。
―おしまい―
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