……そして、しばらくして。

 目を覚ました黄瀬は実に羨ましいことに山吹に膝枕をされていた。


「!?」

「黄瀬……待って」


 すぐさま起き上がり逃げようとする黄瀬を山吹が呼び止める。


「さっきは…………ごめん。逃げる黄瀬を追いかけるのも楽しい、けど……今日は菓子、食べて欲しかった……」

「か、菓子?」


 きょとんとする黄瀬に、山吹が言葉を続ける。


「菓子、作った……友達に、食べて欲しい」

「山吹さんはお友達に手作りお菓子をあげるのが好きなんだよ。同時に彼女のお菓子は友好の証って訳」


 足りない言葉を若草が補った。


「その友好の証を断るんですか、黄瀬さん?」

「うっ……」


 そこで緑川が黄瀬の良心をチクチクと突き、


「食べてあげてよ。そしたら二人はお友達になれるんだからさ」

「とも、だち……」

「そうだぞ黄瀬、お前の欲しがってる友達だ!」


 桜庭と赤井もたたみかけるように訴える。

 黄瀬は俯いてしばらく考えこむと、口を開いた。


「お……」

「?」

「俺は、女とか慣れてねーから、その……すぐに他の連中みたいな友達にはなれねーかもしれねーけど……」


 この場にいる全員が黄瀬の言動に注目している。

 そしてそれを本人も感じているのだろう。みるみる顔が赤くなっていく。


「……っ、あ、甘い物は………………好きだ」

「!」


 無表情な山吹が驚き、そして嬉しそうな顔をした……気がした。

 それよりも喜びをあらわにしたのが桃井。


「良かったね、山吹さん!」

「……ありが、とう」


 自分の事のように嬉しそうな桃井に山吹は頷いて応える。


「良かった良かったぁ♪」

「一時はどうなる事かと思ったな」

「世話が焼けますね」


 まったくだ。黄瀬も山吹も極端なんだよ。


「じゃあ……食べて、くれる?」

「お、おう」


 これで今回の騒ぎもめでたしめでたし、か。

 山吹はごそごそと包みを開け、お菓子を取り出し……


「黄瀬……あーん」

「……っ!?」


 なんて、ベタな事をやってきた。

 あー、黄瀬が一気に真っ赤に。


「そっ……それは無理だっ!!」

「なんで?……食べてくれるって……」

「ふふふ普通に食うっつーの!!」


 どうやら無自覚らしい山吹が小首を傾げる。

 そしてまたじりじりと攻防が始まるのだった。


「ありゃ、またふりだしに戻っちゃった」

「黄瀬さんにしては頑張ったんですけどね~」


 やれやれ、と溜息をつくダブルグリーン。


「クックック……俺は知っているぞぉぉぉ! これは『リア充爆発しろ』というヤツだなぁそうだろう藍原ぁ!!」

「なんでやねん!」


 やっぱりどこかずれている朱堂と、ツッコミを入れてどうだとばかりに得意気な顔を俺に向ける藍原。

 いや、そこでこっち見られても困るんだけど。


「もう俺帰っていいかな?……さっさと掃除終わらせて」

「そこで黙って放置して帰らないのが青野さんですよねぇ」

「当たり前だろ」


 それにこんな連中放置して一人だけ帰るとかそんな恐ろしい真似、俺には出来ない。


「何はともあれミッションコンプリートだ!」

「そうだな赤井ィ!」


 二人のレッドは顔を見合わせるとビシッとポーズを決める。


「ジャスティスファイィィィブ!」

「ブレイブゥゥゥ……V!」

「「とうっ!!」」


 で、意味もなくその場でジャンプ。

 仲のよろしいことで何よりだな。


「……終わったら掃除再開すっからなー?」


 ここらで俺は、めでたしめでたしと強引にしめておくことにした。



 ―おしまい―

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