と、いう訳で。


「話は終わったようですね……ばっちり聞かせて戴きましたが★」


 不安そうな黄瀬をなだめつつ眼鏡を光らせながら緑川がやって来た。

 普通なら絶対聞こえない距離だったけどホントに話がわかったんだろうか?

 すると緑川は俺にごにょごにょと耳打ちをしてきた。

 すげぇ、確かにさっきまで俺達が話してた内容だ。


「……とまぁ、そういう話でしたら僕も喜んで協力しますよ☆」

「緑川、お前……どうやって?」


 いくら地獄耳と言っても限度があるだろう。

 俺の疑問に答えるように緑川はにっこり笑って自分の耳を指し示した。


「これが僕の必殺技ですよ♪」


 よく見ると、片方の耳にイヤホンが。


「名付けて『ジャスティス盗聴』です★」

「なんでもジャスティスつければいいってモンじゃねーーーー!!」


 あと明らかに正義側の必殺技じゃねーから!


「盗聴器仕掛けてたって事かよ……」

「はい☆」


 それで話を聞いていたって、つまりは俺達の誰かに……いや、やめておこう。


「ちなみに青野さんに仕掛けさせて戴きました★」


 聞きたくなかったのに!!


「と、盗聴だなんて……」


 ほら見ろ、向こうのピンクが怯えてるじゃないか。ぶっちゃけ俺も怖いよ。

 緑川はすかさず彼女に歩み寄ると、その肩にそっと手を置いた。


「桃井さん……正義を貫くためには多少の力も必要なんです」

「正義を貫くための、力?」

「はい。それが僕にとっては『情報』という訳です。つまりこの盗聴は正義のため……わかりますね?」


 そんな事を、さも正しいように爽やかな笑顔で語りかける緑川。


「え、あ……」

「だ、騙されるなーーーー!!」


 俺は慌てて腹黒眼鏡と桃井を引き離す。

 危ない危ない、もう少しで洗脳される所だった。


「貴様ら真面目にやれ! 作戦はもう始まっているんだぞ!!」

「そうだぞ、やる気あるのか!?」


 うわ、よりによってダブルレッドに注意された。


「なんだろう、すごく釈然としない」

「ま、まぁまぁ……」


 今回は黄瀬は事情を知らないから、若草が慰めてくれた。地味だけどいい奴だな。


「とにかく、今の俺達の任務ミッションは……わかっているな、青野?」


 うわ、コイツ任務と書いてミッションって読みやがったよ藍原。


「……っ!?」


 全員から一斉に視線を向けられ、黄瀬が後退りをする。


「許せ黄瀬、これも正義のためだ……!!」

「そして山吹さんのためなんだよ♪」

「ま、僕は面白ければ何でもいいんですが★」

「覚悟してくれ、黄瀬……」


 今度は俺達が、じりじりと黄瀬に迫る。


「え、なんで……あ、青野、お前まで……っ」


 裏切られた、と思った黄瀬はショックで涙目になってしまっている。

 そして、


「……スキあり」

「うぎゃあぁぁぁぁぁぁ!?」


 前方に気を取られていた隙に後ろから回り込んだ山吹がしがみつき、


「あ、気絶した」

「ミッションコンプリィトォォォォ!!」


 違う、これは確実に何か違うぞ朱堂。


「これじゃ……菓子、食べられない……」


 気を失って倒れた黄瀬をつんつんとつつきながら、山吹は心なしか寂しそうに呟いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る