「ブレイブピンク桃井凜、ゆけぇい!!」

「あっ……は、はいっ!」


 次も女の子か。ピンクという事は……


「ジャスティスピンク、桜庭望!」

「いっきまーす☆」


 出た、なんちゃってピンク。


「負けないよー♪」

「朱堂君に名前呼んで貰えた……わたし、頑張る」


 桃井は真剣な面持ちで桜庭を見据える。

 と、やる気満々だった桜庭は急にそっぽを向いてしまった。


「……ごめん赤井君、僕負けでいい?」

「なんだと!?……一体何故……」


 驚く赤井に桜庭はこしょこしょっと耳打ちをする。


「…………なるほど、正義のためか! 人の恋を応援するのもまた正義!!」

「っ!」


 内緒話の意味はなかった。

 空気を読まない赤井が大声でそんな事を言うものだから桃井は真っ赤になってしまった……可哀相に。


「あ……あの、そのっ……」

「桃井……」

「……朱堂君っ……」


 意中の相手にまっすぐに見つめられ、桃井はもう消えてしまいそうだ。


「……鯉を、飼っているのか?」


 ダメだこりゃ。

 桃井もあまりの事にその場に固まってしまった。

 と、朱堂がその肩をがっしりと掴む。


「すっ……すすす朱堂君!?」

「何はともあれよくやったぞ! これでオレ達の二勝だぁ!!」

「う……うん、やったね!」


 思わぬ急接近に彼女は嬉しそうに微笑んだ。


……結果オーライ、かな?


 そんな様子を傍観していると、


「ありがとね、彼女に花を持たせてくれて」


 若草が桜庭に話し掛ける。


「……見ての通り、朱堂は鈍感どころの騒ぎじゃないんだ。桃井さんも奥手だし……」

「うん。でも健気で一途だよね。彼の役に立ちたくて一生懸命って感じ。だから応援したくなっちゃった」


 けど、と桜庭は朱堂達二人に視線を向ける。


「……あんまりにももどかしいと思ったら、君だって行動してもいいんだよ?」


 好きなんでしょ?

 桜庭の言葉に若草は目を瞬かせた。


「……そこまでお見通しかぁ、参ったな」


 やれやれと肩を竦める若草。

 つーか桜庭、お前そんなヤツだっけ?


「なんかついて行けないんだが……」


 山吹に引っ付かれた黄瀬がげっそりしながら呟いた。


「…………」


 もはやオプションと化した山吹はたぶん楽しそうなのだろうが、相変わらず無表情にしか見えなかった。



 ここまでの戦いで俺達は一勝二敗。もう後がない。


「ジャスティスブルー、青野剣! いけぇっ!!」

「なんのこちらはブレイブブルー、藍原迅だァ!!」


 さっきから言おうと思っていたのだが、なんだろうこのカードバトルみたいなノリは。


「フ……いよいよ俺の出番か」

「早く終わらせて早く帰ろう……」


 なんかこの人、関わると面倒そうだし。


「どちらが青の名に相応しいか……ハッキリさせようじゃないか」

「えーと……名前だけで言うなら俺だよな?」


 なんたって『青野』だし。

 と、冗談半分で言うと藍原はショックを受けたような顔をする。


「そっ……そうだったのか! ならば俺はブルーを名乗る資格がない?……改名せねば……」


 ってもしもし?

 うちひしがれる藍原に、さらに緑川が進み出た。

 まさか、追い討ちをかける気か?


「名前など関係ありませんよ。貴方にはブルーたる決定的な部分が欠けています」

「なん……だと……?」


 やめろ、もうヤツのライフはとっくにゼロだ!……とか言って止めるべきだろうか、しかし止めるのも後が怖い。


「貴方に足りないモノ……それはリーダーを補佐する能力です」


 キラリ、と緑川の眼鏡が光った。


「貴方は自分の事ばかりで、リーダーである朱堂さんを完全放置プレイ。ここまでツッコミ甲斐のありそうな朱堂さんをです。これではあまりにも…………ブルーの名を語るのなら、リーダーを補佐する事です。青野さんのように」


 二人の視線が一斉にこちらを向く。


「彼は時に厳しく赤井さんにツッコミを入れ、時に優しくその道を正してやり、それはまさにお母さ……いえ、ブルーの鑑」


 おい今お母さんって言いかけなかったか。


「そうか…………俺はニヒルな二枚目であり続ける事に拘って、大切な事を忘れていたのか……」

「うーん、まぁあの朱堂ってヤツは補佐するの大変そうだけどな」


 藍原はゆっくりと立ち上がるとビシッと俺を指差した。


「青野剣!……今回は俺の負けだが次はこうはいかん!! 貴様以上のブルーになってやるからな!!」


……えーと、まずは人を指差すなよって所からツッ込んどくよ。


「さすがは青野、これで同点だな」

「ククッ……やはり最後はオレ達の手で決着をつけねばなぁ?」


 そして勝負は最終戦へ。


「……って、あれ?……これ俺が負けておけば早く終わって帰れたんじゃ……」

「あ、気付いちゃいました?」


 にこにこ笑顔で緑川が言うと黄瀬がそれを睨む。


「テメェまさか、わざと……」

「ふふ……何の事でしょう★」


 という訳でこのアホな対決はもう少しだけ続くようだ。

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