そして、学園は平和を取り戻した。

 集まっていた赤井(アカイサウザー)の仲間達は、出来もしない悪人を必死に演じようと奮闘していたヤツの健気な姿に心を打たれたんだとか。

 赤井が元に戻ったと知ると、これで安心だとばかりに解散した。

 慣れない悪事をしようと頑張る赤井を、ハラハラしながら見守っていたらしい。

 ……どんだけ情けないんだ、赤井。



 その、当の本人はといえば……


「いくぜ! 必殺、赤井ハリケーン!!」

「わっ……こら、ホウキ振り回すな、余計散らかる!!」


 しかし構わず振り回し続ける赤井。

 そんな様子を傍観しながら、俺達は中庭の掃除をしていた。


「結局、僕達ヒーロー同好会の活動は、掃除やら地味なものばっかりになっちゃったね」

「平和な証拠だな」


 ほのぼのとした空気に、


「……つまらん」


 赤井がぽつりと呟いた。


「おい」

「あはっ、じゃあ起こしてみますか? クーデター♪」


 にこにこと物騒な事を言い出す緑川。


「さらりと怖い事言うなよ」


 黄瀬がツッ込むと、


「やだなぁ~冗談ですよ、じょ・う・だ・ん★」


 緑川、目が笑ってない。


「ど……どうだかなぁ……」

「でも、結構まんざらでもないだろ? こういうのも」


 俺は、ようやく暴走を止めた相棒を振り返る。


「人知れずみんなの役に立つ……これも立派なヒーローの在り方か」

「そういう事」


 なにもド派手で華々しい活躍ばかりがヒーローじゃあないんだ。

 赤井もやっとそれがわかってきたか……


「……でも、たまにはちょっぴり刺激も欲しい訳で」


……わかってない。コイツちっともわかってない。


「おいおいおい! クーデターは起こすなよ?」


 また今回みたいな騒動になるのは御免だ。

 どうせ止めるのは俺だろうし。


「あ、ところでさ……」


 桜庭が思い出したように口を開く。


「転入生入ったんだって?」


 緑川も頷いて、


「確か名字は銀、と書いてシロガネ君」


 銀と聞いて赤井がぴくりと反応する。


「お約束の六人目、ジャスティスシルバーだな!!」

「って早速目ぇつけるんかい!!」

「銀君とやら……可哀想に」


 俺はまだ見ぬ転入生に早くも同情していた。


「んじゃ早速、勧誘に行ってみよー♪」

「よぉし……学園戦隊ジャスティスファイーーブ! とぅっ!!」


 意味もなくその場でヒーローっぽくジャンプ。


 ところで……六人目入ったらそれこそファイブじゃあなくなるのでは……?


 一瞬そんな考えがよぎったが、あえて口に出さない事にした。

 どうせこいつら気にしないだろうし。

 俺(と黄瀬)の受難の日々は、まだ始まったばかりであった。



 おしまい?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る