7
屋上の風は強く、心なしか冷たかった。
「……来たか」
「赤井……」
赤井は、すっかり変わり果てていた。
低く、抑えられた声。
風にはためく漆黒のマント。
こいつは本当に、あの正義バカの赤井なのか?
「その名は捨てた。今の俺は悪の首領、アカイサウザーだ」
瞬間、空気が凍りつく。
「……うっわぁ、痛い」
桜庭が冷静に素直な感想を述べる。
「その黒マント、もしかして自作ですか?」
あまりの滑稽な姿に、容赦なく緑川がツッ込む。
「しっ! 黙っててやれって!!」
こんな状況でも、いい人だな黄瀬。
……気を取り直して俺はアカイサウザー、もとい赤井に向き直った。
「もうこんなバカな事はやめろ。戻って来い」
「それはできん。この学園を恐怖で支配する、それが悪たる俺の使命だからな」
作ったような低い声が返ってくる。
どうあっても、俺の呼び掛けに応えるつもりはないようだ。
「何故そんな事をする必要がある! 悪なんて……必要ないだろ!?」
と、そこに、
「そうですねぇ、所詮貴方の悪事なんて、たかが知れていますし」
「そろそろ気が済んだでしょ? 戻って一緒にまた活動しようよ」
緑川と桜庭が珍しく一歩進み出た。
「なに?」
赤井が睨みつけるが、桜庭はそれをにっこりと微笑み返す。
「僕も結構楽しかったんだよ? ヒーロー同好会の活動」
「桜庭……」
「そうです」
緑川がそれに続く。
「仲間と一緒に何かやるのはいい事ですよ? たとえ地味でも、有意義です」
今度はいつもの人を馬鹿にした感じではない、心からの言葉。
「緑川……」
まだ声を作ってはいるが、赤井が明らかに動かされつつあった。
「……ったく」
そこに黄瀬が、
「無理やり仲間に引き入れといて、挙句戻れねぇだぁ? ……認めねーぞ、俺は」
慣れない事を言ったせいか、照れくさそうにそっぽを向いた。
「黄瀬……」
「……さ、戻って来い」
俺が手を差し伸べると、
「青野……みんな……」
一気に赤井の目が潤みだし、
「すまん。俺は、俺はぁ~っ!!」
途中から完全に元の声に戻り、マントを脱ぎ捨てて俺に泣きついてきた。
「まったく……寂しがり屋のくせに、意地張りやがって」
「あ~りゃりゃ、呆気ない」
「彼も結構無理してたんでしょう」
泣きじゃくるリーダーを囲むメンバー達。
「いいんじゃねーのか? めでたしめでたしって事で」
と、
「うむ……」
赤井が鼻をすすりながら、
「終わり良ければ全てよし!!」
「お前が言うな!!」
屋上に、盛大なツッ込みが響き渡った。
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