黄瀬という新たな仲間(と書いて犠牲者と読む)を加えて、俺達は廊下を歩いていた。


「残るは一人、か……」


 よくもまぁ、集まるもんだと俺は他人事のように感心していた。


「それでいよいよ完成するんだね、ジャスティスファイブが!」

「ああ、学園の平和を守る正義の五人組が結成されるんだ!」


 アツく語る赤井と桜庭。

 それに、


「…………なにやってんだろ、俺……こんな変な連中と……」

「あ、我に返った」


 今更遅いぞ黄瀬。


「気付いたら負けだよ、黄瀬君♪」

「そうさ……俺はもう、諦めたよ」


 赤井の親友をやって早十数年、もはや俺には選択の余地すらない。


「お前……苦労してんだな」


 黄瀬がポンと俺の肩を叩く。

 自分もこれからその仲間入りをするというのに、いいヤツだ。

 が、


「はいはいそこ、見苦しい傷の舐め合いしてないで、注目~!」


 可愛らしい声だが、自覚はあるのかその中に凶器を忍ばせている桜庭の毒舌攻撃。


「ひでぇ!」


 俺達の友情は、バッサリと斬り捨てられた。


「あれが最後の一人、緑川護だ」


 傷心の俺や黄瀬を無視して、赤井は前を歩く男を指し示した。


「護かぁ……光じゃないんだね」


 何の話だ?

 そう桜庭に尋ねる間もなく赤井が続ける。


「ふむ、穏やかそうな眼鏡の好青年、といった感じか。キャラ的にもまぁ、いいだろう」

「何が?」

「ていうか前々から言おうと思ってたんだけど……お前どうやって名前とか調べてんの?」


 すると赤井は「よくぞ聞いてくれました!」とばかりに得意げに、


「フッ……実は入学当初から計画していたのさ。名前はクラス発表の時にズラリと張り出されるだろ? その時にチェック済みさ☆」


 さわやかに語るが、それは正直どうかと思う。


「つまり俺達、入学と同時に目ぇつけられてたって訳か……」


 心の底から同情するぜ、黄瀬。

 だが赤井はそれに対して、


「人聞きが悪いぞ? 正義に運命づけられた星回りの、選ばれし勇者とでも言い給え!」

「欺瞞だ……」


 親友の言葉に、俺はなんともやるせない気持ちでいっぱいになった。


「まぁまぁ、正義の味方なんてそんなモンだよ♪」


 にこやかに言う桜庭。


「こいつはこいつでミもフタもねぇし」


 こんなんでいいのだろうか、正義の味方。


「な~にやってるんですか?」

「うぉっ、びっくりした!」


 突然、背後から声がかけられた。

 それはさっきまで俺達が尾行していた、緑川のものだった。


「それはこっちのセリフですよ、人の後ろでゴチャゴチャと……僕に何か用ですか?」


 彼は怪訝そうに俺達を睨みつけた。


「用というか、何と言うか……」

「そりゃあ気付くよね、これだけ騒いでたら」


 だがそんな事など全く構わず、


「そんな事はどうでもいい! 緑川君、同志にならないか?」


 いきなりの誘いに目をパチクリさせる緑川。


「同志……ですか?」

「今こそこの学園の平和を守るため、立ち上がるのだ! ジャスティスファイブの一員として!!」

「強引だな、お前……」


 赤井、少しは空気読めよ。

 緑川はしばらく考え込んでいたが、やがて何か思い当たったらしくポンと手を打ち、


「あ、ひょっとして貴方達ですか? 今ウワサになってる変な集団って」

「げっ……」


 その言葉に俺と黄瀬は思わず顔を見合わせた。


「……ウワサになってるのか?」

「ええ、選ばれた正義の味方だとか何とか言って、ムリヤリ仲間に引き入れるっていう」


 間違いであってくれという願いも虚しく、それは紛れもなく俺達の事だった。


「え、ウソ、僕達有名人?」

「俺達の活躍が、もう知れ渡っているのか!」


 落ち込む二人とは対照的に、目を輝かせる赤井と桜庭。


「そこは喜ぶ所じゃないぞ」

「むしろ恥じろ。変人扱いだぞ」


 赤井はぐっと拳を握り締め、


「くぅ~っ、俺は今、モーレツに感動している!」


 聞いちゃいねぇ。


「正義の味方、ねぇ……いいじゃないですか、素敵だと思いますよ?」


 それまでのやりとりを見守っていた緑川が、ふいに口を開いた。


「おぉ、わかってくれるか!」


 心底嬉しそうな赤井。

 正気か緑川……逃げるなら今のうちだぞ?

 だが彼はにこやかに、


「もちろんです!」


 そう頷いた。

 あぁ、コイツも赤井達と同類か……まともそうに見えたのに。

 そんな事を思っていると、


「正義の名のもとに掲げられる免罪符! 正義、イコール自分が正しい、即ちやりたい放題! ……素晴らしい特権だと思います☆」

「発言が正義じゃねぇー!!」


 むしろ赤井なんかよりよっぽどタチ悪いような。

 その赤井はというと、


「うむ、なかなかいいキャラしてるな」


 なんて呑気な事を言っていて……


「ダメだ! コイツだけは仲間に入れちゃダメだ!!」


 危機感を感じた黄瀬が立ち上がるが、


「あ、ひどーい、仲間ハズレ~? いけないんだ~!」


 と、桜庭。


「うう、あんまりです……」


 緑川は(どこかわざとらしく)さめざめと泣いていて、


「見損なったぞ黄瀬! そんな事をして恥ずかしくないのか? いくら顔が怖いからって」


 赤井にまで責められる黄瀬。


「それ今関係ねーだろ、ええ? お前らグルか! グルだろ!?」


 俺は半泣きの黄瀬を取り押さえる。


「落ち着け黄瀬。どうやったって勝ち目はないぞ」


 悲しいけど、どちらが正しいのかはさておき、ここでは俺達が少数派だ。

 するといつの間にか泣いていたハズの緑川がころりと表情を変え、


「……そういう訳で、よろしくお願いします☆」


 満面の笑みで、そう言った。


「苦手だ……なんかコイツら苦手だ」


 安心しろ黄瀬。世間一般では君が普通だ。

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