3
場所は変わって学園の中庭。
男子校とはいえ春には色鮮やかな花が咲く花壇の前に、一人の男がしゃがみ込んでいた。
大柄な身体に、ちょっと睨まれただけで敵なんかいなくなりそうな怖い顔。そんな男が小さな花をじっと見つめている光景は、確かに珍妙だが……
「いたいた……あの人かな、赤井君?」
「ああ。黄瀬勇……黄色い瀬と書いて黄瀬だ」
「言わずもがな、イエローって訳か」
その光景を物陰から見守っている男三人っていうのも、珍妙さでは負けてないと俺は思う。
いちいち考えると辛いので、もう気にしない事にしたが。
「それにしても、大きくて怖そうな人だなぁ……あんな所で何してるんだろう?」
「さぁ?」
すると赤井が、
「疑ってかかるのは良くないぞ! いくら顔が怖いからって」
誰も疑ってなんかいないけど。ていうか失礼だろ、それ。
だが俺がそう言う前に桜庭が目を輝かせて、
「だよねっ! 見た目と違って優しい人かもしれないし。今だってきっとその地獄の鬼も裸足で逃げ出すような顔のせいで孤立しちゃって、一人寂しく唯一のお友達であるお花さんに話しかけてるとか、そんな感じで……」
と、そこまで一気に言ってから、
「決してタバコとか、悪い事してるとは限らないよ!」
「そうそう、決めつけるのは良くないよな!」
うんうんと頷く赤井と桜庭だがなにげにこいつらひどい。
「ていうか、何よりお前らが決めつけてないか?」
と、
「ていうか、さっきから丸聞こえなんだよテメーら……」
背後から、脅しかけるような声がした。
「あ、やば」
言うほどやばいと思っていなさそうな桜庭。
振り返るとそこには、顔は怖いが心なしか涙目の大男が立っていた。
「なんなんだよ、コソコソと言いたい放題言いやがって! どーせ怖い顔だよ、どーせ孤立して話し相手花とかしかいねーよ図星だよ! ほっとけ!!」
図星なんだ……
なんだか段々かわいそうになってきた。
「しかしそんな日々とも今日でおさらばだ黄瀬!」
「一緒に学園の平和を守ろうよ!」
すかさず二人が勧誘モードに入る。
黄瀬も気圧され、
「い、一緒に?」
「そう、学園戦隊ジャスティスファイブ! 君にはそのメンバーたる資格があるのだ!」
だからいきなりそんな事言われて、納得できる奴なんざいないっつーの。
「は? なんだそりゃ?」
案の定、黄瀬も訳がわからないといった顔だ。
「あー、気にしないでくれ。ただのアホ連中だから」
だがそのアホ連中の中に俺もカウントされているのかと思うと泣けてくる。
そんな俺の苦悩などそっちのけで、
「一緒に戦おう、仲間として!」
桜庭はその大きな目をまっすぐ黄瀬に向けた。ぎゅっと手を握る事も忘れない。
「仲間……」
「ああっ、一緒とか仲間とか、孤独なロンリーウルフには魅力的な言葉の響き……早まるな黄瀬! 惑わされちゃいけない!!」
だが俺の必死の呼び掛けも空しく、
「……ね?」
「お、おう……」
とどめの必殺、桜庭の小首ナナメ45°傾け攻撃の前に、黄瀬はあっさり陥落した。
「よし決定! よろしく頼むぞジャスティスイエロー!!」
「あーあ」
黄瀬の両肩をがっしりと掴む赤井、桜庭の手。
こうなったら逃げられないな、可哀相に。
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