2
ところ変わって人気のない廊下。
小さな足音が響く中、俺と赤井は物陰に身を潜めていた。
「……来たぞ、あいつだ」
「赤井、俺達が今こうして待ち伏せている相手……あいつは誰だ? 見た所俺達と同じ一年生のようだが」
女の子のように可愛らしい顔立ちの少年が、何が楽しいのか弾むように歩いていた。
「ふんふふ~ん♪」
鼻歌の声も愛らしい。
そんな彼の様子を陰からうかがう俺達二人……はっきり言って、怪しい。
しかしそんな事を気にしているのは俺だけのようだ。
赤井は真剣なまなざしで、
「一年C組桜庭望……確かに俺らは彼と全く面識がない。むこうも恐らく俺らの事など知らないだろう……だが、彼にはヒーローたる資格があるのだ!」
言い放つ気迫に押されて、俺は僅かにあとずさった。
「し、資格……?」
すると赤井はよくぞ聞いてくれたとばかりに人差し指を立て、
「名前に色名が入っている」
と得意気に説明を始めた。
「奴は桜……つまりピンク! 戦隊モノに欠かせないピンクの役割を……」
「まてまてまて!」
聞いていられず、すかさず俺がツッコミに入る。
「桜色とピンクは微妙に違うとか、そんな些細な事はこの際突っ込まないでおこう……だがこれだけは言わせてくれ!!」
俺は赤井の両肩を掴むと、
「あいつ……男だろ?」
だが赤井はふん反り返って、
「細かい事はどうでもいい!」
よかないわ!
「ピンクが男の戦隊モノなんて、俺は嫌だぞ!!」
これは譲れない。
すると赤井はゆっくりと俺から視線を外し、
「それは……まぁ、男子校だし」
それまでのテンションはどこへやら、急に素で答えた。
「お前も嫌なんじゃねーかよ」
しかしそこは認めないらしい。
赤井は己を奮い立たせると、
「とにかく行くぞ! おーい、そこのキミ!!」
と、桜庭少年に駆け寄った。
「はい?」
と、振り返る少年はやっぱり可愛いのだが……それでも、男なんだよなぁ……
まぁ、それはさておき。
「俺達はキミの力を必要としている!」
「な、なんですか?」
急にそんな事言われたら普通驚くだろう。
彼もその例にもれず、訳がわからないといった顔をした。
「学園の平和を守るため、共に戦おうじゃないか!」
何の勧誘だ。
「え、えーと……」
案の定、桜庭は困っているようだ。
「君にはジャスティスピンクの座が与えられる!」
与えられる、とか言われてもなぁ……どうせなら洗剤とか、もっと実用的な特典が欲しいものだ。
「んーと……あ、もしかして、部活の勧誘とか?」
当たらずとも遠からず。
「ん、まぁ、そんな所かな」
すると桜庭はしばらく考え込み、
「ヒーロー同好会かぁ……面白そう! いいよ、まだ部活決めてなかったし☆」
眩しいくらいの笑顔で承諾した。
「おお、来てくれるのか!」
赤井は嬉しそうだが、
「んな、あっさりと……」
拒否権ぐらいあるだろうに……いや、ないか。
でももうちょっと良く考えた方がいいと思うぞ、桜庭君。
「よっしゃ、次行くぞ次ぃー!」
早速意気投合し、ノリノリな二人は早くも次の目標へと向かっていった。
……面倒なのが、増えやがったな……
俺は頭痛をおぼえながら、二人の後について行った。
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