ところ変わって人気のない廊下。

 小さな足音が響く中、俺と赤井は物陰に身を潜めていた。


「……来たぞ、あいつだ」

「赤井、俺達が今こうして待ち伏せている相手……あいつは誰だ? 見た所俺達と同じ一年生のようだが」


 女の子のように可愛らしい顔立ちの少年が、何が楽しいのか弾むように歩いていた。


「ふんふふ~ん♪」


 鼻歌の声も愛らしい。

 そんな彼の様子を陰からうかがう俺達二人……はっきり言って、怪しい。

 しかしそんな事を気にしているのは俺だけのようだ。

 赤井は真剣なまなざしで、


「一年C組桜庭望……確かに俺らは彼と全く面識がない。むこうも恐らく俺らの事など知らないだろう……だが、彼にはヒーローたる資格があるのだ!」


 言い放つ気迫に押されて、俺は僅かにあとずさった。


「し、資格……?」


 すると赤井はよくぞ聞いてくれたとばかりに人差し指を立て、


「名前に色名が入っている」


 と得意気に説明を始めた。


「奴は桜……つまりピンク! 戦隊モノに欠かせないピンクの役割を……」

「まてまてまて!」


 聞いていられず、すかさず俺がツッコミに入る。


「桜色とピンクは微妙に違うとか、そんな些細な事はこの際突っ込まないでおこう……だがこれだけは言わせてくれ!!」


 俺は赤井の両肩を掴むと、


「あいつ……男だろ?」


 だが赤井はふん反り返って、


「細かい事はどうでもいい!」


 よかないわ!


「ピンクが男の戦隊モノなんて、俺は嫌だぞ!!」


 これは譲れない。

 すると赤井はゆっくりと俺から視線を外し、


「それは……まぁ、男子校だし」


 それまでのテンションはどこへやら、急に素で答えた。


「お前も嫌なんじゃねーかよ」


 しかしそこは認めないらしい。

 赤井は己を奮い立たせると、


「とにかく行くぞ! おーい、そこのキミ!!」


 と、桜庭少年に駆け寄った。


「はい?」


 と、振り返る少年はやっぱり可愛いのだが……それでも、男なんだよなぁ……

 まぁ、それはさておき。


「俺達はキミの力を必要としている!」

「な、なんですか?」


 急にそんな事言われたら普通驚くだろう。

 彼もその例にもれず、訳がわからないといった顔をした。


「学園の平和を守るため、共に戦おうじゃないか!」


 何の勧誘だ。


「え、えーと……」


 案の定、桜庭は困っているようだ。


「君にはジャスティスピンクの座が与えられる!」


 与えられる、とか言われてもなぁ……どうせなら洗剤とか、もっと実用的な特典が欲しいものだ。


「んーと……あ、もしかして、部活の勧誘とか?」


 当たらずとも遠からず。


「ん、まぁ、そんな所かな」


 すると桜庭はしばらく考え込み、


「ヒーロー同好会かぁ……面白そう! いいよ、まだ部活決めてなかったし☆」


 眩しいくらいの笑顔で承諾した。


「おお、来てくれるのか!」


 赤井は嬉しそうだが、


「んな、あっさりと……」


 拒否権ぐらいあるだろうに……いや、ないか。

 でももうちょっと良く考えた方がいいと思うぞ、桜庭君。


「よっしゃ、次行くぞ次ぃー!」


 早速意気投合し、ノリノリな二人は早くも次の目標へと向かっていった。


……面倒なのが、増えやがったな……


 俺は頭痛をおぼえながら、二人の後について行った。

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