第17話 夏祭り-1

……ボーシ、ツクツクボーシ、ツクツクボーシ、ツクツクボーシ……


窓の外では、暑さなんて何でもないかのように、セミが元気いっぱいに鳴いている。教室の中はクーラーが利いているけど、何となく盛夏特有の倦怠感が立ち込めているように感じる。


「助動詞で大切なのはリズムよく覚えること!じゃあ私の後に続けてー。ら、り、り、る、れ、れ、はい! 」


「らぁ、りぃ、りぃ、るぅ、れぇ、れぇ……」


沖田先生は相変わらず元気だ。対してクラスのみんなはいつにもまして気だるげ。かくいう私もここ最近の暑さには閉口している。それに加えて連日の補習。中学生は気楽だったなぁと今更ながら思う。


「もー、なんでそんなだるそうに言うかなぁ…… 。今日まで終われば明日からしばらくお休みなんだから、最後くらいしゃきっとしなよー 」


「はぁーい…… 」


「駄目だこりゃ…… 」


沖田先生、ご苦労様です……。沖田先生の言う通り、明日からはお盆休みも兼ねてしばらく補習もお休みだ。そして何より、毎年楽しみにしている夏祭りがある。


去年はリナと一緒に行ったんだっけ。今年は桔梗ちゃんも一緒に行きたいな。あ、でもちょっと中村君とも行きたい……かな?


「せんせー、時間になりましたよー! 」


元気な男子が勢いよく手を挙げて叫ぶ。名前は……なんだっけ。女子は大体覚えたけど、男子はあまり話す機会がないからなかなか名前を覚えられずにいる。


「そんな嬉々として言うなぁ!あーもー、もう一個助動詞終わらせたかったのにー 」


私の授業計画が……、という嘆きは男子たちの耳には届かない。頑張れ、沖田先生。私としてはこれ以上情報が増えたら、頭がパンクしてしまうのでありがたいのですがね……。


「やっと終わったー! 」


「こっからがほんとの夏休みだな 」


「夏祭りー! 」


「くそッ、リア充が…… 」


教室が一気に活気づく。


「……はい、号令…… 」


「きりーつ、きをつけー、れーい 」


「「「ありがとうございましたー 」」」


「特に連絡事項はないから、もうこのまま解散ねー 」


「よっしゃー! 」


「カラオケいくぞー! 」


みんなさっきまでの倦怠感が嘘みたいにはしゃいで教室を飛び出していく。

……特に男子。こういうとこ男女差が出るのはなんでだろう……。


「なーんで男子ってあんなにバカなんだろうね? 」


ざわめきの中、ひょいっとかばんを肩に担いで近づいてくる少女が一人。

無論、リナだ。


「……そんなこと言わないの 」


まぁ、元気がいいのは悪いことじゃないし? 確かに授業中にその元気をもう少し出せばいいのにとは思うけど。


「そんなことより! 夏祭り! 今年も行くよねっ? 」


「……私もおんなじこと考えてた」


さーすがサクラ、と言いながらリナが顔を寄せてきた。


「考えたんだけどさ、トリプルデートってのはどうかな? 」


こそこそと私の耳にささやく。


「……トリプルデェ……ええっ? 」


思わず聞き返してしまった。それは、その、つまり三組の男女ペアでってことだよね?期待と不安が入り混じった感情が私の胸でざわめく。


「……一応聞くけど、メンバーは? 」


「決まってるじゃん! 私とサクラに桔梗ちゃん、聖花と中村と藍先輩! 」


どうだ名案だろうとばかりにドヤ顔のリナだけど……。


「……川村君と中村君はともかく、藍先輩とあの二人のかかわりってないよね? 」


「……あ 」


……うん、さすがリナだ。





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