第16話 カラオケ「河童」(後編)
「それじゃあ、リナちゃん、いってみよー! 」
ノリノリの桔梗ちゃん。BGMは少し前に流行ったラブソング。
「まぁ、確かに聞いてほしくはあるんだけどね……」
ぼそり、とこぼれたリナの言葉を桔梗ちゃんは聞き逃さない。
「ほぉら! やっぱり聞いてほしいんじゃん! 」
「……あのね、こないだ三人で買ったプレゼント、聖花にあげたの」
「おお! 」
盛大なリアクション。わかってもらえると思うが、私ではない。
「……買ったのはリナだけどね」
一応突っ込んでおく。
「いや、まぁそうなんだけど。でね、その時に……」
* * *
「永井さん、大丈夫? 」
「ふぁい !? 」
いきなり声をかけられて、変な声が出てしまった。思わず口を手で軽く覆いつつ、声の主を振り返る。
「……聖花」
振り返った先にいたのは、まさに私がどうやってプレゼントを渡そうかと思案していた川村聖花その人だった。
「大丈夫? 顔赤いし、なんかぶつぶつつぶやいてたし、熱ある? 」
心配そうに私の顔を覗き込んで、額に手を当てようとする聖花。こういうところ、ほんとに天然だと思う……っじゃなくて!
「だ、大丈夫大丈夫。ちょっと考えごとしてただけだから」
慌ててその手を押しとどめて距離をとる。そんなことされたら、私の中の何かが壊れてしまう気がする。
「そう? あんまり無理しないでね? 」
優しすぎかよ! と私は心の内で悶絶する。
「……ありがと。それはそうと聖花、今日、た、誕生日だよね? 」
多少つっかえたものの、何とか言えた。
「うん。覚えててくれたんだ」
忘れるわけ、ないじゃん……。好きな人の誕生日だよ?
「これ、誕生日プレゼント」
照れ隠しでちょっとぶっきらぼうに聖花に押し付ける。
驚きに聖花の瞳が見開かれた。
「……いいの? 」
「いいも何も、聖花のために……」
何気に恥ずかしいせりふを吐きそうで怖い。
「……とにかく、おめでとう! 」
あとは笑顔で押し切る! 顔がほてって熱い。
「ありがとう」
少しはにかんで彼は言う。
私は、その笑顔のためならなんだってできる気がした。
* * *
「うわぁ、それはやばいわ。良かったね、リナちゃん」
顔を真っ赤にしてリナはうつむく。
「……うん」
すごいなぁ、リナは。私はまだ「好き」さえわからない。
「……じゃあさ、桔梗ちゃんはどうなの」
まだ頬は少し赤いものの、リナが反撃に身を転じた。
「いっ……」
途端に桔梗ちゃんの顔が引きつる。
「私とかサクラとかにばっかり聞くけどさ、そういう桔梗ちゃんは好きな人とかいないの? 」
桔梗ちゃんは目を泳がせながら、テーブルの上にあったオレンジジュースに手をのばす。
「えーっと…… 」
「……私も聞きたい 」
一応私も言ってみる。ううー、と桔梗ちゃんはうなって再び口を開く。
「……じゃ、当ててみてよ」
そう来たか。私とリナは顔を見合わせる。
「「藍先輩?」」
「なんでわかるの……? 」
桔梗ちゃんががっくりとうなだれた。
「サクラちゃんはともかくリナちゃんまで知ってたの……? 」
「うん 」
完全復活を果たしたリナはこともなげにうなずく。
「えー…… 」
目の前のポテトチップスをひょいとつまみ上げながら、リナは続ける。
「まぁ、かっこいいもんね、藍先輩」
「……優しいし」
「強いし? 」
「……桔梗ちゃんはどういうところが好きなの? 」
「連携完璧かよぉ…… 」
私とリナは黙ってピースサイン。
「好きなところか……。なんかもう全部好きだけど、しいて言うなら笑顔かな」
言われて藍先輩のふわりとした優し
「……わかるかも」
「わかるわー」
あの笑顔は、ちょっと忘れられない。
「そっかぁ、藍先輩かぁ…… 」
うんうんとリナがうなずく。
「じゃ、頑張って私たちの恋、成就させよっ! 」
「「おーーーー! 」」
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