第4話  ナンパ?

「サクラー? 帰ろー?」


「……あ、うん」



 朝も通った桜の道を歩く。



「さっきの、すごかったねぇ」


「……中村君? 」


 不機嫌が思わず声に出てしまった。


 リナが苦笑しながら言う。


「ありゃりゃ。やっぱサクラ的にはアウトだったか」


「……沖田先生とは気が合いそうだけどね」


「わっかる!ってか、めちゃ美人だよね。あれは女の私でも惚れるわ」


「……だね」


 私は歩みを止めた。


「どしたの? 」


 怪訝けげんそうに問うリナ。私は黙って正面を指差す。


「あ……」


 目の前には、今まさに話していた中村君その人が倒れていた。


「中村!」


 タッと地面を蹴ってリナが駆け寄る。私もそのあとに続く。


「中村、しっかり!」


 リナが中村君の上半身を起こし、話しかける。


「う……」


 気がついたみたいだ。


「水……。水をくれ……」


 素早くリナがかばんから水筒を取り出す。


 コップが付いているタイプで、リスのイラストが描かれたカバーが、持ち主を表しているかのよう。


「ふう。サンキュ。えーっと……」


「理那。永井理那。リナでいいよ」


「ありがとう、リナ。で、そっちは……」


「……藤島桜子です」


「桜子、でいいかな? それとも藤島のほうが良かったりする?」


「……えっと、藤島でお願いします」


「藤島も、ありがとう」


 感謝の言葉と人懐っこい笑顔。


「で、どうしたの?」


「俺、生まれつき貧血でさ。結構気をつけてたんだけど、今日はあんま調子よくなかったみてぇ。で、帰ろうとしたらクラッときて倒れちまったと。ホント、助かったよ。ありがとな」


 先程の教室での発言で勝手に苦手意識をもってしまっていたけれど、実はいい人みたいだ。


「ありがとう」や「お願いします」が言える人は、私の中で好感度が高い。あと、相手の目を見て話せる人も。


 そういう意味では、彼は好青年だった。


 まっすぐに私やリナを見る目は澄んでる。


 そんな彼を見ていると、先刻の教室での彼は別の人物だったように思えてくる。


「……あの。中村君、さっきの教室での質問って、わざとあんなこと訊いたの?」


「あ、バレた? 最初にあーやってクラスの雰囲気柔らかくしとくと楽かなー、って思ってさ」


 第一印象に反して彼はなかなかの策士みたいだ。


「でも、何であんなプライベートな内容だったの? 」


 水筒をかばんにしまい終えたリナも訊く。


「ああ。あれは俺の個人的な疑問」


 ……前言撤回。やっぱり馬鹿かもしれない。


「そうだ。二人とも、このあとヒマ? 」


「私はヒマだけど? 」


 私もうなずく。


「よかったら、一緒に昼飯食わね? 俺がおごるから」


 私はリナと顔を見合わせた。


 これは……


 もしかしてナンパだろうか?


 いまさらだけど、中村君の容姿について触れておく。


 やや茶色がかった髪を短く刈り込み、リナと同様に小麦色に日焼けした、いかにも体育会系の男子。 澄んだ瞳が印象的で、濃い眉が顔全体をキリリと引き締めている。


 私は男子のかっこよさに疎いとよくリナに言われるが、そんな私でも素直にかっこいいと思える。


 そんなイケメンに女子二人が食事に誘われている。はたから見れば、十分ナンパじゃないだろうか。


「どーする、サクラ? 」


 見た目はチャラいが、多分悪い人ではない。多分。


「……私は、別にいいよ」


「んー、じゃ、私も行くわ。いーよ、三人で食べにいこ」


「オッケー。何か希望は? 」


「どこでもいーよー」


「……リナ、それ一番難しい奴……」


「あー、ファミレスでいいかな? 」


 リナはどこでもいいと言ったので、私が代わりにうなずいておく。


「じゃ、行きますか」


 リナの一声で、私たち───イケメン+JK×2は桜の舞う校庭をあとにした。





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