第5話 ひとめぼれ
かくして、私たち三人は全国展開している某ファミリーレストランにいた。
私とリナが隣同士に座り、二人で中村君と向かい合う形だ。
「で? 何が目的なの? 」
水を持ってきてくれた店員さんの姿が視界から外れたと同時に、リナが切り出した。
「……はい?」
「しらばっくれない! どーせアンタもサクラのこと狙ってるんでしょ! 」
……狙ってるって表現はどうかと思うけど……。それにリナ、完璧に目的わかってて訊いてるし。
「は? いやいや、別にそんな下心があったわけじゃ……」
全力で否定する中村君。それを見たリナはますます目を吊り上げてたたみかける。
「中学校三年間、サクラに言い寄ってくる男子を見てきた私の目はごまかせない! 正直に言いなさい! 」
そう、リナは私に好きな人ができたかとたびたび訊いておきながら、男子を私から遠ざける。かれこれ三年の付き合いになるけれど、いまだにこういうところ、リナという人物はわからない。
むむむ、と私が考えている間にも二人の押し問答は続く。
「言いなさい! 」
「いやだ! 」
「言え! 」
「断る! 」
そして私が、人間って矛盾してる生き物なんだな、という答えを導き出したとき、中村君が折れた。
「あー。わかった、わかった。正直に言うよ。俺は、リナともう少し一緒にいたかったの! 」
抵抗することをあきらめきった中村君の口からは衝撃的な言葉が発せられた。
「リナともう少し一緒にいたかった」?
それってつまり……リナを、好きになったってこと?
しかも、ほぼ初対面で、って……
「……ひとめぼれ?」
「ちょ、サクラ !? 」
先程まで怒りに顔を赤くしていたリナは、今は別の意味で頬を朱に染めていた。
「恋多き女」こと、永井理那。
常に好きな人がいるけれど、誰かと付き合ったことはない───ある意味恋多き女なのだけど、おそらく一般的なそれとは微妙にニュアンスが異なる───つまりはこういうことを言われたこともないに等しいわけで。
中村君のほうを見ると、彼も心なしか顔が赤い。私たちのほうを見ないようにしながら水を飲んでいる。
「……私、帰ろうか?」
二人の邪魔をしてはいけない、とそう提案したけれど、即座に引き留められた。
「「 いや、むしろいて !? 」」
見事な
そして
二人とも動く気配が全くないので、仕方なく私が沈黙を破る。
ピンポーン
「ご注文はお決まりでしょうか? 」
「……ランチプレートを三つ、お願いします」
勝手に三人分頼んだけれど、二人とも
さて、と私は正面に座っている中村君を改めて見据えた。
「……中村君」
「はいっ!? 」
彼の声はやや裏返っている。私から話しかけられるとは思わなかったのだろう。リナも、(リナ以外の相手に対して)めったに口を開かない私が突然話しかけたことに驚いたのか、目を見開いてこちらを見ている。
「……下の名前、何ていうの? 」
二人に見つめられる中、私は先ほどから気になっていた質問を口にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます