第3話 担任とクラスメート

「はー、やっと終わったぁ」


 ぐーっと伸びをしながらリナが言う。


「……校長先生の話が長いのはどこも一緒なんだね」


「だねー。ホント、心構えがどーだの、高校生としての自覚を持てだの」


 一度火のついたリナのマシンガントークは留まることを知らない。だからこそ一緒にいて飽きないのだけど。



「……リナ、教室ここでしょ?」


 愚痴に夢中になっていたせいか、リナは教室を通り過ぎようとしていた。


「え?ああ、ほんとだ。ありがと、サクラ」


「はい、席ついてー」


 教壇に立っているのは私たちとほとんど変わらないくらいの小柄な先生。


 細縁メガネのせいか、カッチリした印象を受ける色白美人。入学式でも紹介があったけど、改めて近くで見ると顔が整っているのがよくわかる。何というか、1つ1つのパーツが美しい。わずかに茶色がかった瞳や、小さく顔の中央に収まっている鼻、うっすらと桜色の引かれた張りのある唇。


 女の私でも思わず見入ってしまう。


「この1組の担任を務めます、沖田聡子おきた さとこです。担当教科は国語。放送部の顧問をしています。1年間、よろしく」


 放送部の顧問なだけあって、はきはきとした口調でとても聞き取りやすい。


 全体的にキリッとした雰囲気をまとっているが、教卓の上に置かれたペンケースはもこもこの羊がたくさん描かれていてかわいい。もしかすると、クールな見た目に反してキュートな人なのかもしれない。


 少し丸みを帯びた黒板の「沖田聡子」の文字を見ながらそう思った。


「……今日はこれで終わりますが、くれぐれもはしゃいで帰りに事故に遭わないように。あと、明日から授業が始まりますからそのつもりで。私からは以上です。何か質問は?」


「はい!」


 元気のよい男子の声が教室中に響く。


「えーっと……。中村なかむら君」


 座席表をちらりと見て、沖田先生が男子の名を呼ぶ。


「中村」と呼ばれた男子はそのままの勢いでこれまた元気にその「質問」を口にする


「先生はおいくつですか?」


「ノーコメントです」


 見事なまでの即答。パッと見た感じは20代くらいだけど……。


「じゃあ、結婚されてますか?」


「……いいえ」


 あまりにも突然かつ不躾ぶしつけな「質問」。心なしか沖田先生の額に青筋……。


 中村君、気付いてないのかな……。


「彼氏はいますか?」


「……いません。中村君、私が言った『質問』は私のプライベートのことではないのですが」


「え?そうなんですか?じゃあ最後に。どんな男性がタイプですか?」


「以上でHRホーム・ルームを終わります。解散」


 見事なスルー。沖田先生とは気が合いそうだ。


 私もずけずけと人のプライベートに踏み込んでくる人はあまり好きではない。




 ……なんか、大変かも。





 窓の外の空は、抜けるように青い。





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