生まれた年の硬貨

 私は自分が生まれた年に製造された五円玉を持ち歩いている。穴には紅白の緒を通して名前を書いた懐紙かいしに包み、それを財布の裏ポケットにそっと忍ばせているのだ。

 これは恋のおまじない。


 あとは、あいつの生まれ年の五円玉に同じ緒に通せばいい。

 同級生で生まれた年も同じだと、用意する五円玉が私と全く同じになってしまうことに気づいたのは、自分の分を用意してからだった。相手の分も自分で用意してもいいらしいけど、私はあいつが持っていた五円玉を使いたい。

 これは私のおまじない。


 問題はあいつに目的を知られてはいけないことだ。

 財布からこっそり抜き取ってしまおうか、とも思ったが、五円玉なんて財布に1枚あるかどうかだし、それが偶然にも生まれた年に製造された五円玉だなんて確立的にありえないだろう。私は気が遠くなった。


 迷ったあげく、何気ない風を装って生まれた年の五円玉を持っていないか、あいつに聞いてみた。

 ものすごく訝しげな表情で私を見て、なんで? と聞かれた。

 尤もな回答を用意していなかった私は、突発的に生まれた年の五円玉でインテリア細工でも作ろうかなと、と答えてしまった。一応嘘は言っていない。

 当然のように銀行の両替を勧められたが、しどろもどろになりながらも、偶然手に入れたものじゃないとだめだ、と言い切った。

 我ながら意味不明な理由だったのだが、それから放課後の少し時間だけ一緒にいる時間ができた。


 今では、私の家にたくさんの五円玉がある。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る