第4話
…ついた?
凪に降ろされて、とてとて と地面に足をつける。
後ろから水の流れる音がして、目の前には真っ赤な鳥居がひとつ、堂々と立っていた。
鳥居の少し奥に見える手水舎で、中国風の衣服を着用している、黒髪サラサラヘアーの少年が柄杓で手に水をかけている。
凪はその少年と知り合いらしく、鳥居をくぐるなり、
『あ!ハオハオ〜!』
なんて嬉しそうに声をかけて駆け寄って行った。少年は凪の考えを読んだかのように、淡々とした口調で返す。
『あ、凪。サクさんなら中にいるよ。』
『中だって!いこいこ!』
私は凪に手を引かれて、神社の中にぐいぐい入っていった。
ガラッと扉を開けると、中に敷かれた畳の上に、金髪で深緑色の目をした美青年が佇んでいた。
髪を後ろに一本に束ねていて、下ろしたら腰くらいまでありそうな長さだ。
…まるでここだけ時が止まっているような、静かな雰囲気に息を飲む。
『…、凪。久しぶりだね。』
落ち着いた声がさらさらと耳に入ってくる。
『そうだなぁ、久しぶり〜』
『…ところで、その子は?』
金髪の青年は凪から視線を外し、ゆっくりと私に目を向けた。
ほんとうに綺麗な顔…。瞳の中に吸い込まれそう。
『…見たところ人間みたいだけど。』
少し困った様子のその人に、凪はあっけらかんとした様子で返す。
『当たり!さっき拾ったんだけど、面倒見てくんない?』
『はぁ…またそうやって私に面倒ごとを押し付ける気ですか。』
またってことは、凪が頼みごとをするのはよくある事みたいだけど…ん〜、なんだか申し訳なくなってきた…。
それに、見ず知らずの人に面倒を見てもらうなんて図々しい気もするし。
「やっぱり私…帰ります。」
『?! ちょっと待ってよ!帰り方も知らないのにどうやって帰るつもり!?』
あ…、そういえばそうだった。私には帰り方がわからない。
この様子を見て、金髪の青年はとうとうため息をついて目を閉じてしまった。
「あ、えと…」
私と凪が二人であたふたしていると、
『…わかった。』
と小さな声が聞こえた。
『…私がその子の面倒を見よう。だが凪、後で対価はきっちり払ってもらうからな?』
『わかってますって〜。』
交渉が成立したところで、その青年は私に向かって話そうと、こちらに体を向ける。
なんだろ、面倒をかけるからには私も何かやらないといけないし、そういうことについての話かな?
そんな事を考えていると、その青年とばっちり目があった。
『…まだ名を聞いていなかった。私は
…朔さん、か。
『君は何という名なんだ?』
そう聞かれて私は戸惑った。
「名前…」
『あっ、そうだ!朔さんが名前を付ければいいじゃん!この子自分の名前忘れちゃってるみたいだし。』
…えっ、私はいいけど、今さっき会った人の名前とかつけられるもんかな?
『…いいのか?』
「私はいいけど…。」
まあ、朔さんは悪い名前とかつけなさそうだしね。
『そうだな…』
そう言って朔さんは腕組みをして考え始めた。
五分も経たないうちに、組んでいた腕を下ろして私のことを見る。
『ああ、こういうのはどうだ?』
朔さんが言うと、途端にさっきまで喋らないで座っていた凪が口を挟んだ。
『え、どういうのどういうの?』
『凪は静かにしていなさい。』
『…は〜い』
朔さんに言われて、凪はあからさまに残念そうに背中を丸めて戻っていったように見えたけど、あれは反省していなさそう。
私の名前かぁ…緊張の瞬間だ…
『…いいですか、
あなたの名前は…
神様のかくしごと。 夏凜 @02karinn
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