第3話


「それってどういう…」


『ちゃんと僕に捕まってるんだよ?』

「ちょ…っ!!」

私の言葉を全く聞かずに、勝手に抱えて上に飛ぶ。ものすごい勢いでジャンプするから、とっさに私は目をぎゅっとつむった。

私、このまま連れていかれて、お鍋の具にでもされて食べられちゃうのかな…。


そんな死に方絶対やだ!

もう!はなしてよ、と必死に手足をばたつかせる。

『ちょ、ちょっと!暴れないでよ!落っこちたらケガじゃ済まないよ!?』


え、落っこち…

下を見ると、高い高い木のてっぺん。

「…っ?!」

私はまた目をつむって、得体の知れない青年に思いっきりしがみついた。


その彼はというと、

『待っててよー、もうちょっとで着くんだからさ。』

と にこにこ笑っている。

まだ私はその目的地すら聞いてないんだけど…一体、どこに連れて行くつもりなの?


タンッ

と地面で音がして、

『とうちゃ〜く!ついたついた!』

という明るい声が耳元で聞こえた。

ゆっくりと目を開くと、満開の桜が視界を埋め尽くす。

「さくら…」

ひらひらと舞う花びらに目を奪われながら、私も地面に足をつけた。

『ね?きれいでしょ?』

彼は自慢げに私の顔を覗き込む。


「ここは…?」

私はまだ状況を整理できてない。

『んー、今から分かるよ。』


私は真剣に聞いているってのに、なにそのへらへらした返事は?

私がむっとすると、ははは、とまた笑われた。

『大丈夫、とって食ったりしないって!あいつはそういう奴だから! ほら、こっちこっち!』

あいつ…?


私を置いて先に歩いて行ってしまうキツネの青年を追って行くと、向こうに下り坂が見えてきた。


「うわぁ…!」

私は思わず目を見開いた。


真ん中にある立派な神社を囲むようにして水が流れ、その周りがぐるっと坂になっている。

「綺麗……」

『でしょでしょ?』

彼はにっこり、少年のように笑った。

この笑顔を見ていると、ほんとうに、悪い人ではないのかもしれないという気がしてくる。


そういえば私、この人の名前も聞いてないんだっけ。

「あの…」

『ん?なに?』

私を見る瞳が、

月に照らされて きらり と光る。

「まだお名前、聞いてないなと思って。」

『 あ!忘れてた! 僕の名前は、ナギ。君は?』

私の名前は…あれ、私の名前…私の名前、なんだっけ?

「 ……。」

『あはは、忘れちゃったか。まあいいよ、なんとかなる。』


本当に私、どうしちゃったんだろ。自分の名前を忘れるなんて。


『さ、いこう!』

また彼…凪に持ち上げられて、神社にダイブする。

「ちょっと…!凪さん、危ないですよ!」

『へーきへーき。』

びゅっと風を切って飛ぶ。身体にあたる空気が気持ちいい。


タンッ




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