第5話 【亀さん集団暴行事件】
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ある昼下がりの砂浜で童三人が木の棒で亀さんを殴る蹴るをしていじめていた、ちょうどそこを通りかかった浦島太郎さんが子どもたちを諭して亀さんを助けた。
被害者 亀
加害者 源太
加害者 喜作
加害者 茂吉
通行人 浦島太郎
証言 源太 ――暇だったので、亀をいじめて遊んでいた。
証言 喜作 ――源太くんが、一緒にやろうっていうから亀をいじめた。
証言 茂吉 ――本当はやりたくなったけど、やれっていわれたからやった。
証言 亀 ――(その場にいなかったために証言なし)
証言 浦島太郎――(同じくその場にいなかったために証言なし)
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この調書をとった簡単なあらましはこうだ。
僕は亀さんがいじめられているところを見てはいないし、浦島太郎さんがそこを通りかかって亀さんを助けた場面も見ていない。
そのご亀さんがいなくなったのも浦島太郎さんが失踪したところも僕は見ていない。
あの日僕は民からの通報でその場に向かった。
砂浜には木の棒を持った源太くん、喜作くん、茂吉くんがいただけだった。
複数の民もそれを目撃している。
亀さんは子どもからの暴力も硬い甲羅によってほぼ無傷だった、という情報もその民の証言によるものだった。
証言は正確な情報だといえるだろう。
砂浜には亀さんと思われるものの血痕などは一滴もなかったのだから。
そこで僕は子どもたちになにがあったのかを訊きつつ、さらに民たちからの聞き取りを擦り合わせて調書を作成した。
子どもたちも甲羅を殴ったとしかいってはいなかった。
頭部を狙っていない(亀さんは頭を守るため甲羅に潜っている。当然の防御反応であるが)という点から見ても殺意は否定される。
要するに僕は肝心なところはなにひとつ見ていない、ただ木の棒を持ち砂浜で佇んでいた子どもたちに話を訊いただけ。
子どもたちに浦島太郎さんに諭されたときの状況も訊いたけれど、ひどく優しい仲裁だったようで、大人が子どもを恫喝するというようなこともなく、一言――こら、やめなさい。からはじまって、そんなことをすると亀さんが痛い思いをする、ということを理論立てて注意したという。
じつに教科書的な仲裁だと思う。
僕が浜辺に辿り着いたときは亀さんも浦島太朗さんも両方行方ははわからずじまいだった、そのうえ伝聞での状況だったが子どもたちの罪に問えないと判断した。
そもそもこの世は元服を迎えてはいない子どもは罪にはならないのだ。
それゆえに子どもたちのいたずらという自供もあいまって両親に知らせることもなく口頭注意だけですませた。
この元服前の
更生することを前提とし未来ある
ただしその無罪放免になった若者が再犯を繰り返すことも多くて、僕自身はこの決まりに
せめて大人と同等ではないにしろなにか対策を講じるべきであると思う。
という想いを、三人は良い意味で裏切ってくれた。
源太くん、喜作くん、茂吉くんはあのときの僕と浦島太郎さの注意と忠告が効いているのか本当に優しい子に育ってくれているようだ。
だから鴎に猪さんのこと知らせてくれたのだろう。
もっとも亀さんをいじめたこと自体もいたずらということで罪の意識は希薄だったけれど。
善悪の判断がまだ未熟だったのだろう。
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