2話目。「感情」
「、た、橘さん」
金曜日の放課後、彼は帰ろうとする私を呼び止めた。
「え、ん?」
「あのさ、今いい?」
「…、良いけど、佐渡くんが私に話しかけるなんて珍しいね。」
「うん、ごめん…… 」
「いや、謝ることじゃないよ。」
「えっと…、ちょっとこっち来て。」
戸惑いしかなかった。廊下に出てまで私に話したいことって何だ。周りの目が痛い。見なくてもわかる、好奇心だらけだ。
「ねぇ、私に何の話?」
「……橘さん、、えっと… 僕は君の心が見える、でも君は僕の心が見えない、そうでしょう?」
……え、、。
「………そ、そうだけど、佐渡くん、心が見えるって。」
「僕は人の目から心が見える。…きっと、君もそう。だって僕は、僕の心が見えないことに驚く君の心も見ていた。」
そんなことってあり得るのか。でも、そうか。私はずっとこんな力があるのは私だけだと思っていた。それは思い上がりだったのかもしれない。
「…、どうして、佐渡くんの心は見えないの?」
「………、」
「ずっと、聞きたかったの。それに、私に話しかけてきたのって、何か目的があるんじゃないの?、それは、私が佐渡くんの心を見えないことに関係する?」
「そう、なんだ。橘さんが、僕の心を見えないと言うより…、例えば、他に心を見ることができる人がいたとして、でもその人にも僕の心は見えないと思う。」
…つまり、佐渡くんの心を見ることのできる人はいない。
「それは、なぜ?」
「なぜって。………それは、僕には感情がないから。」
そう言った彼の心には、ほんの少しだけ寂しさが見えた。完全に感情がない訳ではないのだろう。
どうして…、
衝撃を受けた私は、彼がなぜそれを私に話したのか、そんな大事なことを忘れていた。友達に呼ばれてまた来週と、一言残して私は彼の前から去った。
家に帰って呆然とする。
私には、彼が少し、けれども確かに寂しそうに感じられた。感情が無いって、どういうことなんだろう。彼の言う通り彼の心は見えなかった。
そうだ。思い立った私は携帯の検索画面を開く。調べて出て来たのは失感情症という言葉。背景には精神的ストレス、主に親から受けるものがあるらしい。私には少し難しかったが、彼は、この病気と闘っているのだろうと自分を納得させて眠りについた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます