1話目。「橘かよと佐渡渚」


橘 かよ、私の名前。物心ついた時から人の目に心が見えた。悲しいとか、嬉しいとか、感情が見える。罪悪感も緊張感も見えるから嘘ついてることも簡単にわかったりする。心が見えると言うのは違うかもしれない。見えるという表現が正しいのか分からない。心が読める、よりは心が見える、の方がしっくりくるだけ。なぜ人の心が見えるのかって、それが分からないから苦労しているんだ。得たくて得た能力じゃない。少なくとも言えるのは私の親も祖父母もたぶんその前々のご先祖様方もこんな能力持っていなかったということ。

私はずっと神様の存在を信じてる。だから神様、どうして私にこんな能力を与えたのか、それだけ教えて欲しい。私が人の心を見れることがいったい誰の得になるのだろう。神さまの気まぐれなのか。それなら私は自分を不幸だと慰めることができる。だけどこれが神様から私への善意なら、私がこの能力を受け入れて喜ぶことは義務なのだろうか。


それはあんまりだ。



/


1人要らない能力を抱えて生きる私は、ある日彼と出会った。

彼はクラスメイト、そしてたまたま席が隣になった。一年間で席が隣になる事は珍しくない。寧ろ前後を含めたら近い席にならない方が珍しい。それは何ともないこと、それでも私は、それが運命のように感じられた。運命でも奇跡でもなんでも良い。ある意味でその2つは矛盾しているけど。私がそれが特別なことだと思いたかっただけだ。

皆は彼を無口で面白くない人だと言う。確かにその通りだ。彼はクラスメイトがおはようと言ったって口を開かず会釈で返すような人だった。もちろん、返事が来ないと分かっていながら挨拶するクラスメイトも、最後には一人もいなくなっていたけど。だからといって皆、高校生にもなってそれを責めることはしなかった。彼は必要な時は話したし、誰にも迷惑をかけなかったから、責める必要もなかったのだと私は思う。

よく喋るうるさい奴は苦手で、けれども無口な人には話しかけたくなるっていう悪い癖から、私は席替えで隣になった佐渡渚に話しかけた。そう、私も多数のクラスメイトの同じように彼を無口だとしか思っていなかった。もちろん彼のことを嫌いだったわけではないが、特別好きでもなかったのになぜか興味を持った。彼の心を覗いてみたい、そう思った。


「よろしく、佐渡くん」

「ん、」

彼は、ちらと目を合わせてぺこりと礼をする。

「え、、、?」

「、、、、何か?」

「えっいや、なんで?、、、、、、、、いや、ごめんやっぱり何でもない。」

私は彼の目を見つめた。彼は私を不審そうに見ていた。何でもなくなかった。彼の目からは何も見えなかったのだ。表情から感情を読み取りづらいのと同じように、目から感情を見るのも難しい人は今までにもいた。目を合わせるのすら難しいこともよくある。でも、だからといってこんなにも何も見えないことがあるのだろうか。今まで私が意識して見ようと思って見えなかったことなんて無かったのに。

結局それで会話が(会話と言えたのかも分からないが)終わり、授業でのペア学習とかも問題なくこなしながら一週間くらいたつ。変わらず彼の目から感情を見ることはできなかった。



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